環境に適応
「ここが樹海、か」
休息もそこそこに、ティールたちは再びダンジョン探索を始めた。
二十一階層に転移し……今回は雷鳥を気にせず二十五階層へ爆進。
そして二十六階層に辿り着いたティールの目に飛び込んできた光景は……生い茂る木々、という言葉だけでは説明が足りな過ぎた。
「……森林暗危のダンジョン内に生えている木と比べても、一本一本の太さが負けてないな」
「そうだね。でも、森林暗危と比べて、太陽の光? が良く届いてるから、明るいのは嬉しいね。ただ……ちょっと蒸し暑いね」
二人だけではなく、アキラにとっても未知の探索地帯。
これまで感じたことがない環境に驚きは感じるものの、つい先日まで何日も……十日以上探索し続けてきた山岳地帯との変化に、ワクワクしていた。
「暑いことには厚いが、この様子だと……割と水源がありそうだ」
「そんな感じがしますね。ただ、ダンジョンという場所を考えると、そういうところにトラップを仕掛けてきそうですが」
「……非常にあり得そうで恐ろしいな」
アキラがかつて臨時でパーティーを組んだ冒険者が、戦闘中に腹イタに襲われたことがある。
その際、腹イタに襲われた冒険者は得体の知れない水を飲んだわけではなかった。
ただ、その時偶々腹イタに襲われてしまったのだ。
そういった経験もあり、アキラはパーティーメンバーが戦闘中に腹イタに襲われる恐ろしさを把握していた。
「まっ、水は十分にあるからそんなに心配しなくても大丈夫ですけどね」
ティールとしては、蒸し暑さによる体力の消耗を警戒したい。
そんな事を考えていると、二十六階層に入って初めてモンスターと遭遇。
(コボルト、か……コボルト?)
視界に入ってきたモンスターは、間違いなくコボルト。
しかし、体形には違和感がないものの、周囲の木々に捕まる姿は、猿に近かった。
「「「「ガルルゥアアア!!!」」」」
(あっ、ちゃんと声はコボルトのそれなんだ)
コボルトの姿で猿系モンスターの声を出されると……笑って戦闘に集中できない。
(動きは軽快。これまで戦ってきた普通のコボルトよりも、直線的じゃない……かな?)
声はコボルトのそれではあるが、動きはやはり猿系モンスターに似ており、トリッキーな動きで三人を攻め続ける。
「よっ、ほっと」
「ふんっ!!」
「ハッ!!」
しかし、それでも所詮は通常種のコボルト。
多少の異常は、三人にとって特に驚くべき異常ではなかった。
「こいつら、中々面白い個体だったな」
「動きが猿系のモンスターっぽかったよね」
「……この、樹海? という環境に適応した個体、なのかもしれないな」
「環境に適応した個体、か~~。確かに、普通のコボルトの感覚だと、少し動き辛い環境なのかもしれないね」
全体的に高低差があり、木々の枝も長く、枝を渡るだけで木々から木々へ移動できる。
やや滑る地面も多く、冒険者側も行動には注意しなければならない。
「…………つまり、オーガやリザードマン、サイクロプスやトロールといったモンスターも、この環境に適した個体が現れると」
「そ、それはどうなんですかね。リザードマンと……オーガはあり得そうですけど、サイクロプスやトロールといった巨人タイプのモンスターはこういった環境内で行動するのに適していませんから」
先程の環境に適応という話はどこにいった、とツッコみたくなったアキラだが、脳内でサイクロプスとトロールというモンスターについて思い出す。
(……そう、だな。そもそもあのモンスターたちが樹海という場所で動けば、転んで木々に激突して思うように
動けないだろう……そもそも適応したところでという話か)
アキラとしてはサイクロプス、トロールといった体が大きいモンスターは斬り応えがあるため、再度戦ってみたいと思っていたが、現れないのであれば致し方なく……斬り応えがあるモンスターとの遭遇を期待して待つことにした。
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