あるにはあるけども

「良かったな、マスター」


「そうだなぁ……後ろ盾って訳じゃないけど、俺たちと良い関係を築きたいってクランがあるだけで、安心感が増した」


ローバスを昼食を食べ終えた後、三人は元々の予定通り街を散策していた。


「……ティールやラストには、それなりに立場のある知り合いがいなかったか?」


「えっと……………………いるには、いますね」


グリフォン討伐が目的で訪れた街で、昔ティールがオークから助けた女の子の姉、クララ・インタールと出会った。

今でもクララはティールとラストの事をしっかりと覚えている。


そして聖剣技と暗黒剣技という特異なスキルを二つ持つ青年、ヴァルター・フローグラ。

ティールからの指導、ラストが鍛錬に付き合ったお陰もあり、ヴァルターは聖剣技と暗黒剣技を使いこなせるようになった。


当然、フローグラ伯爵家の当主であるギャルバとも面識はあり、ギャルバにとって二人は自分にとっても……息子であるヴァルターにとっても恩人と認識している。


「その者たちの力を借りれば、紫獅の誓いというクランに対して恐れる必要はないのではないか」


「かもしれませんね。ただ、俺としてはあまり冒険者間のいざこざで知り合った貴族の方たちの力は借りたくないと言いますか」


まだ村から出て冒険者としての活動を……社会人としての経験を三年も積んでいないティールだが、権力という力がどれだけ重要なものであるかは解っている。


解ってはいるが、それでも自分がその力でどうこうされたくないという思いを持っているため、ティール自身も同業者に対して権力で押さえつけたくはなかった。


「だから、同じ冒険者として権力を持ってる人、組織が盾? になってくれるのは素直に嬉しいって感じです」


「なるほど……されて嫌なことはしない、という事だな」


甘いと感じる部分はあるも、それこそティールという思いもあった。


「しかし、実際に何かしてくると思うか、マスター」


「前にも話したと思うけど、あのヒツギって人が……俺に、だろうな。決闘でも申し込んできそう」


「……マスターとしては、向こうが興味を引く何かを用意していれば、受けても良いと」


「そうだね。何も用意してないのは論外。お金はあまり惹かれない。中々手に入らない物とかじゃないと、受けても良いとは思えないかな」


ティールも鬼ではないため、ヒツギが用意した物を迷惑料として貰うだけ貰って決闘の申し込みは受けない、といった鬼畜の所業をするつもりはない。


(とはいえ、波状試練を探索し尽くしたら、また別の街に行くし……うん、それまでに何もなかったら、それはそれで一番良い結果だよな)


再度絡んで来ないのであれば、それが最良の流れ。


ただ……ヒツギが持つプライドはティールが思っているほど低くはない。

加えて、考え無しに改めてティールたちに絡むほど……愚かでもなかった。


初絡み時、ギルドでの二度目。

あの時まではアキラという女性に対して興味が惹かれていた。

だが、あの場でティールが自身のランクを公開したことで、さすがにヒツギも眼中になかった少年がただの少年ではないと思い知らされた。


それから所属しているクラン、紫獅の誓いの情報収集力なども使い、ティールに関する情報を集めていた。


冒険者として活動を始めてから一か月も経たないうちにBランクモンスターを討伐。

それから何度も冒険や依頼の中でBランクモンスターを何度も倒し続けていた。


途中からは、そこまでBランクモンスターを倒し続けられているのは、ラストという竜人族の青年がいるからでは? と思ってしまうかもしれないが……それでも、最初の一体……ブラッディータイガーの討伐に関しては、その場に同業者はいなかった。


では、偶々幸運が起こっただけ?


強敵と呼べるモンスターと戦ったことがある冒険者ほど、Bランクという怪物と対峙した場合……幸運だけで倒せる生易しい相手ではないことを解っている。


故に……今現在、ヒツギは自身の刃を改めて研ぎ直していた。

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