何故、恐れない?

「マスター、紫獅の誓いという名のクランは、あのヒツギが所属しているクランのことだ」


主人の表情から、本当に忘れてしまっていることを察し、ラストは直ぐに思い出せる内容を伝えた。


「あぁ~~~、あいつの……」


「えっと……ヒツギと、浅からぬ因縁があるって感じ、かな?」


ローバスもギルドで起こったティールたちと、ヒツギたちが衝突した一件に関しては耳にしている。

だが、それ以外の詳細は知らなかった。


「浅からぬ因縁っていうのは言うのは少し大袈裟かもしれませんけど、そうですね…………俺は、あいつの事が嫌いです」


「そ、そうなんだな」


ローバスから見て、ティールはあまり他人に対して嫌いという言葉を使わない少年に思えていた。


(確か、あいつがアキラさんを勧誘しようとしたんだったか? ここまでティールさんが嫌ってるのを考えると……ティールさんにとって、アキラさんは姉的な存在だからか?)


何故ここまでヒツギの事を嫌っているのか。

ローバスがその件に関して想像した内容は少し異なるが、何はともあれティールがヒツギの事を嫌っているのは事実だった。


「ある程度強いのは解りますよ。ギルドでは結局物理的な意味でぶつかることはありませんでしたけど、こう……とりあえず、自分の方が絶対に上の立場なんだ!! 的な喋り方と言うか態度? が嫌いでした」


あくまで、ヒツギの態度等が嫌だったと語るティール。


「そこは認めるんだな」


「経験年数は少ないですけど、それなりに視る眼には自信があるんで。というか、アキラさんの実力を知ってる身としては、それなりに実力がないのにあぁいう絡み方をするのはあり得ないと思ってるんで」


「……確かに、ヒツギの場合なまじ良い顔を持ってるだけに、実力が伴ってなかったら……マジでクソダサい奴になるよな~」


ローバスもヒツギとはある程度年齢が近いため、一定の時期まである程度意識しており、それなりに実力に関しては把握していた。


故に、現時点で……才能なども含めて、自分がヒツギには敵わないことを理解している。

ただ……ティールがダーディーディアスを素手で、技術を使わず単純な腕力だけでぶちのめす姿を知っているため、そんなティールを無視するような態度で話しを進めようとするヒツギの姿を想像し……思わず吹き出しそうになった。


「ふぅ~~~。ティールさんが、ヒツギの事が嫌いな理由は良く解った。さっきも言った通りティールさんにその気がないだけど、うちのクランとして嬉しい限りだよ」


「俺としては、そもそもクランに所属したりすることに興味がないですね」


「確かに……それはそれで良い心構えではあるな」


クランに所属している身のローバスとしては、自分の考えや選択を否定されたような気分になる。


ただ、ローバスは自分とヒツギを比べる時以上に解っていた。

自分と……ティール達は、全ての面において格が違うと。


凡であるからこそ、物理的な力以外のものも求めた。


それに対し、ティールたちは三人とも非凡である。

ティールは権力の強さを認識しているが、それを強く欲してはいなかった。


(さて、あいつはティールさんたちに対して……どうするんだろうな)


あの現場にローバスはいなかったが同じクランに所属しているメンバーから、ヒツギが思いっきり恥をかかされたという内容は耳にしている。


ローバスの事を知るヒツギは、恥をかかされ……やられたままで終わるタイプではない。

しかし、それと同時にカッコ悪い形で権力も無理矢理行使するタイプではないことも知っていた。


「これは勧誘とかそういうのは全く関係無いんだが、ティールさんたちはヒツギの様にバックが強い。そういう相手に対して、怖いと思ったことはないのか?」


「ん~~~~……権力が恐ろしい力だというのは、なんとなく解っています。ただ、これでもあまり休みがない、刺激的な日々を送り続けてきたお陰か、多少なりとも縁はあります」


全くの強がりではなく、本人の言う通り……ティールはそこら辺の冒険者よりも、権力に関して縁を持っていた。

ただ、ヒツギの様な存在に対して恐れを感じない理由は……他にもあった。


「それと、俺は強さや存在、そういった意味で本当の強者と対面したことがあります。だから、あまり恐れることがないんじゃないかなって思います」

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