失礼のない程度に

「やぁ、ティール君」


「ん? あんたは……ダーディーディアスに襲われてた」


三人にしては長い間ダンジョンで探索を続け、地上から戻って来た翌日……三人は目的もなく街中を散策していた。

そんな三人に、ある冒険者が声を掛けてきた。


その人物は、先日ダーディーディアスに襲われていた冒険者パーティーのリーダーである男だった。


「ローバスだ。その節は本当に助かったよ。君が助けてくれなきゃ、誰かしら死んでいた」


ローバスたちは決して無理して二十階層前半で探索していた訳ではないが、それでも当時遭遇したダーディーディアスは……彼らの想像を超える力を有していた。


「改めて、感謝の意を伝えたい」


「えっと…………つまり、何か用がある、と」


「話が早くて助かるよ。昼食はまだか? まだなら、是非とも奢りたい。以前、約束しただろ。地上に戻ったら飯を奢らせてほしいと」


「そういえばそんな話しましたね……分かりました。では、お言葉に甘えて」


散策中に屋台で買い食いをしていたが、そこは前衛タイプの冒険者。

腹一杯食えないことはない。


(…………随分、良いところだな)


ローバスに連れられてやって来た店は、外装からも解る高級店感がぷんぷん匂う店。


「予約の心配とかは必要ないから安心してくれ」


「う、うん」


中に入ると、ローバスは店員に話を付けて個室を案内してもらった。


「好きなようにメニューを頼んでくれ」


「……本当に良いの?」


メニュー表に記されている金額は、どれも店の外装や内装に見合うレベルの高さ。


「あぁ、そこも安心してくれ。先日の一件をうちのマスターに伝えたら、金をドンと用意してくれたよ」


「そ、そうだったんだ。それじゃあ……遠慮なく」


主人であるティールが遠慮しないのであればと、ラストやアキラも特に遠慮せずメニューを頼み始めた。


「っと、あぁ~~~~~、あれだ。一応訊いておけって言われてるから訊くんだけどさ、ティールは……クランに入ったりする事に、興味はあったりするか」


ローバスはジラーニを拠点とするクラン、深緑のファミリアに在籍する冒険者。


そんな彼が優秀な冒険者でありながら、まだまだこれからの年齢であり、クランに所属してないティールにスカウトの声を掛けるのは、至極当然と言えた。


「特にないですね」


「だよな~~~。うん、解ってた。うちのマスターもそう言われるのは解ってるだろうから、まぁ……色々と安心してくれ」


とにかく、うちのクランはクリーンだと伝えたいローバス。


「真正面からダーディーディアスを力でねじ伏せられる膂力、そんで本来はスピード活かして戦うアタッカー。んで、魔法もバリバリ使えるんだろ」


お礼をする、加えて一応スカウトの声を掛ける為に、深緑のファミリアはティールの冒険者としての能力、功績などを失礼のない程度に調べていた。


「んで、お仲間のラスト君も力でねじ伏せる超アタッカー。やろうと思えば遠距離攻撃も出来る……そんで正式に組んだのかまでは解らないけど、ここ最近噂になってた他国出身の……侍、だったか? アキラさんみたいなアタッカーもいれば、クランに入るメリットなんて感じないよな」


話だけ聞くと、フルアタッカーの様で非常にバランスが悪いように思われるが、ラストがタンクを出来る。

ティールが後方から魔法使いとして遠距離攻撃を行えることを考慮すれば、割とバランスの取れたパーティーへと化ける。


「まっ、深緑のファミリアで活動してる俺としては、そういう反応を知れただけでも嬉しいけどな」


「? そう、なんですか」


「うちのクランには入らない。けど、紫獅の誓いには入ろうか迷ってるって答えられる全然嬉しいよ」


紫獅の誓いというクラン名が出るも、ティールはいったいどんなクランだったか……直ぐには思い出せなかった。

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