飢えていた

「っ……マスター、あそこに飛んでいる鳥はもしや……」


現在、三人が探索している階層は二十四階層。


深緑のファミリアのメンバーを二十一階層に送り届けてから四日が経っていた。


「黄色い翼、体毛、鋭いくちばし…………っ!!! 行ってくる!!!!!!」


モンスターから奪ったスキル、視力強化を使用したティールはラストが指さす方向に視線を向け、飛んでいるモンスターの特徴を確認。


確認した特徴から、ティールは何日間も探し求めていた雷鳥だと把握。


そして把握した瞬間、猛ダッシュで雷鳥が飛翔する場所へと向かった。


「……物凄い速さで向かったな」


「そうだな。ずっと探し求めていたことを考えれば、嬉しさが爆発してもおかしくはないだろう」


ラストとアキラは偶に遭遇するBランクモンスターと戦い、非常に戦闘欲が満たされていた。


しかし、ティールはもし雷鳥と遭遇した時は自分が戦うと約束してもらった為、Bランクモンスターと遭遇しても戦う機会は全て二人に譲っていた。


「しかし、なんと言うか……少々、雷鳥が可哀想に思えるな」


モンスターに向ける言葉ではない内容を口にするアキラ。


だが、ラストは否定することなく、苦笑いをしながら小さく頷いた。


「解る。ただ単純に殺意を、戦意を向けるのではなく、マスターはあの雷鳥との戦いに……非常に飢えていた。運がなかったと言えばそこまでだが、今回はその期間が非常に長かった」


「こういった流れは、今まであったのか?」


「どうだろうな。俺がマスターと出会ってからはなかったと思う。冒険者として活動を始めた期間を考えれば……おそらく初めての流れかもしれないな」


「なるほど…………ラスト、一つ賭けをしないか」


アキラにしては、珍しい提案。

いったいどんな賭けなのか……内容を尋ねる前に、ラストは解ってしまった。


「……止めておこう」


「ふむ、どうしてだい?」


「賭けにならないからだ…………俺は、今回の戦い、マスターは飢えからくる戦闘欲を抑えきれず、速攻で終わらせてしまうと思っている」


「ふ、ふっふっふ。そうだったか。それじゃあ、仕方ないね。同じ事を考えていたなら、賭けは成立しない」


「そうなるね…………では、他の内容で賭けてみるか?」


良い案を思い付いた!! といった顔をするアキラ。


「……今回は聞こうか」


「ティールが雷鳥をどんな攻撃で倒すか」


「最後の一撃で、という意味か?」


「そうだね」


「悪くはないが、賭ける前に被ってないか確かめるべきだな」


「それもそうだな。因みに、私は斬撃だと思う」


「俺も斬撃だと思う」


ラストは一秒たりとも悩むことなく即答した。


「……被ってしまったね」


「だな」


ラストはまず、戦る気満々のティールであれば、遠距離攻撃でちまちま戦うことはないと思った。

加えって、雷鳥は体形が名前通り鳥であるため、力比べなどをする要素が皆無。


故に、斬撃で仕留めることになると予想。


アキラとしても、ティールが最も得意な攻撃は斬撃だというイメージがある為、斬撃で仕留めるという結論に至った。


「とりあえず、大人しく待つしかなさそうだな」


「そうみたいだな」


と言いつつも、ぼんやりとティールがダッシュした方向を眺めている二人は、ダンジョンを徘徊しているモンスターたちからすれば、狩り時に思えてしまう獲物。


「……全く、ダンジョンという場所は退屈しないな、ラスト」


「あぁ、そうだな」


そんな二人を最初に襲撃したモンスターは……フォレストゴーレム。


しかも丁度二体セット。


「どうせなら、素手でやってみようか」


敢えて普段使用している刀を使わず、五体を使って戦うと決めたアキラ。


「では、俺もそうするか」


ラストも大剣を抜剣せず、二人は仲良く再生の能力を持つフォレストゴーレムを……ティールが戻るまでボコボコにし続けた。

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