あなたは、悪くない
「あんた、何を根拠にそこまで自信があるのかは解らないが、この場にアキラの婚約者が居ないからといって、お前にチャンスがあるとはならない。解ったらマスターの言う通り、さっさと消えろ。いつまで俺たちまで好奇の視線に晒すつもりだ」
ラストは……なんだかんだで解っている。
ティールはとてつもなく強い。
特別なスキルを持っているから、だけではない。
動機はなんであれば、ティールの積み重ねてきた努力に嘘はない。
ラストの主人は、間違いなく強者である。
それは間違いない…………ただ、まだ子供なのである。
知性というスキルを有していようとも、精神は……心は、まだ子供なのだ。
故に、目の前の……ティールたちに絡んでくる中では、随分珍しいタイプの男に対し、どう対応すれば良いのか……どう反論すして追い返すのが正解なのか解らなくなってしまってもおかしくない。
「ッ……そうだね。確かに、場所が悪かった。でもね……先程の言葉通り、自分が口にしたことに、心に嘘は付けない質でね。それじゃあ」
(……おそらく今、マスターは「それじゃあな、じゃねぇんだよクソったれが!!!!!」と思ってるだろうな)
見なくても解る。
後ろから……本当に珍しい種類の怒りを感じる。
そしてそんなラストの予想は……見事的中していた。
(あんの、く、クソ…………クソ野郎が……なんでさっさと消えねぇんだよ、クソが!!!!!)
というより、無茶苦茶が低下していた。
ティールはアキラに対して、ヒツギと同じ様な感情を抱いた。
ただ……アキラにそういった人物がいる。
それを知って、直ぐにこの想いは暴走させたり爆発させたりしてはいけないものだと気付いた。
だからこそ、その想いを口に出すことはなかった。
それを……いきなり現れたヒツギという男は想いを伝えた。
そこに関しては、ティールもとやかくは言わない。
誰であっても、自分の想いを伝える権利はある。
そういった事を考えられる思考力は残っていた。
しかし、自分の想いを伝えたが、その人物には既に想い人がいる……それが解ったにもかかわらず、何故まだ自分の貫き通そうとするのか……全くもって理解出来なかった。
「…………ったく、面倒な奴だな」
「すまないな、二人とも」
「いや、あれだ……アキラが何かしたわけではないだろ。なぁ、マスター」
「えっ。あ、あぁ、そうだな。うん……アキラさんは、何も悪い事してませんよ」
アキラは……冒険者である。
夜の街で働く嬢ではなく、アイドルといった存在でもない。
自身のあらゆる武器を活かし、野郎たちの恋心を釣って生活している訳ではない。
ただパーティーメンバーたちと道を歩いているだけで、名も知らない初対面の人物に結婚を前提で付き合って欲しいと言われた…………間違いなく、アキラは良い迷惑だと断言しても構わない。
「悪いのは、アキラさんにそういう人が居るって分かったのに、さっさと消えないあの良く解らない冒険者ですよ」
「そ、そうか。ありがとう」
明らかに戸惑っているアキラ。
(なんと言うか、ティールにしては本当に珍しく……怒っているな)
まだ一年も、半年も一緒に行動していないが、それでも何となくティールがどういった事に対して起こるのか、解っていた……正確には、解ったつもりでいた。
(そんなに気に入らない顔をしていたのか? 世間一般で言う、良い男……イケメン? という顔をしてるようには思えたが……しかし、ティールは相手がそういった人物だからといって、怒りを抱くことはない筈だ……)
アキラは、ティールの気持ちに気付いていない。
本人がなるべく表情を出そうとしていない。
加えて、そもそもティールはたった……たった一度彼女とかそういった人物はいるのかと聞いただけで、それ以降はその辺りを……婚約者がどういった人物なのか、探る様な質問をしていなかった。
なので、自分を好いているのではなく、慕ってくれているところがあるのだと思っており……間違ってはいないが、正解とも言えない。
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