玉石混交

「あそこがボス部屋みたいですね」


数日を掛けて……ではなく、たった数日で十層のボス部屋前に打とりついたティールたち。


「かなり並んでいるな」


「四十階層まである長い長いダンジョンだ。それだけ探索する価値があると思う冒険者が多いってことだよ」


ティールの言う通り、波状試練には様々な目標を持つ冒険者たち……中には騎士たちが攻略を行っている。


(合計で……十数組かな? まだ十階層のボス部屋前だから、強さはごちゃごちゃしてるね)


多くの者が訪れ、挑戦している事もあって、ボス部屋前に並ぶ冒険者たちの強さは様々。


あっという間に倒して十一階層に進めるパーティー、それ相応の時間が掛かるであろうパーティーに……攻略出来るかどうか五分五分なパーティー。


「……玉石混交、というやつか」


「どこでその言葉を知ったのかはともかく、あまり呟くべきではない言葉かな」


「悪いな、マスター」


「別に良いよ。呟いてしまったものは仕方ない」


多少知識がある者であれば、玉石混交という言葉がどういう意味を持つ言葉なのか理解出来る。


玉であると自覚している者……もしくは、玉と勘違いしている者たちであれば、その言葉を耳にして悪い気はしないであろう。


だが、自分が石側であると認識している者たちにとっては、当然馬鹿にされているとしか思えない。

そして彼らが石側であったとしても、石には石なりのプライドがある。


「「「「っ……」」」」


(……ダンジョン内だからか、どうやら大人しくしてくれるようだな)


自分の失言だったことは認めるラストだが、それでも可能であれば自分が起こした面倒は自分で防ぎたい。


ラストが放った強烈な戦意は……石たちが、あの竜人族の青年は玉側だと思わせるには十分だった。


「始めてダンジョンを探索したが、このまま下がり続ければ、最初ほ気落ちすることはなさそうだな」


アキラは本当に初めてのダンジョン探索だったこともあって、超上層に生息するモンスターの強さにテンションガタ落ちであった。


しかし、考えられる頭を持たない脳筋侍ではないため、三十一階層以降になれば、自分が望む戦いが絶対にできるという確信があった。


「出現するモンスターのリストでも見てみますか?」


波状試練へのファーストアタックで深層まで潜るつもりではないが、既に全階層の情報を購入済み。


「…………ふふ……………………ふっふっふ」


ところどころで小さな笑みを零すアキラ。


全てのモンスターの詳細を知らないが、多少の知識はある。

加えて購入した情報には、ダンジョン内でも危険度が高いモンスターの知識がある。


強敵と戦えることを楽しみにしていたアキラとしては、それらの情報を見て笑みを零すなというのは無理な話だった。


(こういうアキラさんに笑みは、どこか危ない魅力があるよな…………それで、それに惹かれる面倒なオスがいると)


ティールはいつもながら、同業者と無駄に喧嘩したい訳ではない。

出来れば仲良くしたいと思っているが、最初から自分に面倒な感情を向けてくる輩と無理に仲良くする気はない。


(多分、多少話すだけ……で留まる気はないだろうな)


アキラが零した笑みに強く反応した人物たちは、ラストが玉石混交と呟いた中の玉たち。


「そういえばマスター、吊り橋効果という話を聞いたことがあるか」


「吊り橋……吊り橋? 聞いたことがある様なない様な話だな」


「窮地を共にすれば、男女の距離が近くなる、という言葉らしい」


「…………なるほど。体験したことはないけど、想像してみると一理あるのかも、と思える言葉だな」


いきなり振られた会話に戸惑うティールだが、とりあえず会話を続ける。


「そうか。俺はまだそういうのは解らないが、少なくともダンジョンという場所でそういった狙いで面識のない人物に近づくのはとても愚かだと思ってな。アキラはどう思う」


「ふむ。私としては、ダンジョン探索に集中したい。意図した接近? というのは確かにラストの言う通り、ダンジョンという場所を嘗めている様に思えるな」


ラストの意図を察したアキラは少し大きめの言葉で本心を零し、愚か者たちを牽制した。

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