次元が違うから
「ほらほら、二人ともいつまでもむくれてないで。呑んで食べよう!」
「「…………」」
やる事をやり終えた後、時間も丁度良いので店に入って夕食を食べ始めた三人。
しかし、ティール以外の二人はやや表情が……暗くはないが、明るくはなかった。
「……そうだな。一仕事を終えた後の食事だ。あまりむっとした顔のままというのも良くないな」
「そうですよ。ほら、ラストもがっつり食べようぜ」
「あぁ、そうだな…………」
解っている。
マスター自身は傷付いていない。特に気にしてない。
それは以前、説明を受けた。
どういった心構えを持っているのか、どのように考えているから、そこまで毎回毎回強い怒りを抱かないのか。
しかし、主を慕うラストとしては……その心構えや考え方を教えてもらっても、中々常に気にせずクールにという対応はまだ難しかった。
「……あれだな。ティール、君は本当に大人だな」
「ど、どうも」
「こんなことを聞くのは良くないかもしれないが、どうしてあそこまで冷静に受け流し、対応出来るんだ?」
明らかに見下し、侮辱と取れる発言ばかり。
いきなり喧嘩に発展させてしまうのは良くないが、それでも言われた本人がここまで冷静なのも珍しい。
ラストの様に怒気や殺気を向けても、誰も文句は言えない。
「ん~~~……慣れてるから、としか言えませんね。同年代、少し歳上……ベテランの人たち。当然、イラつく事はありますけど、でも毎回キレ散らかしてたらきりがないじゃないですか」
「むぅ。それは、そうかもしれないな」
ティールが見下される、嫉妬される理由はティール本人がどれだけ頑張っても、決してどうにかなる要因ではない。
解決するとすれば……後五年ほど経過し、ティールがそれ相応の体格や身長を身に付けるしかない。
簡単に言ってしまうと、時間しか解決する方法はないのだ。
「と言うか、俺は…………まぁ、あれです。冒険者の中でも強い方です」
「強いどころか、総合的に見たらトップクラスじゃないか?」
「アキラの言う通りだな」
「あ、ありがとう、ございます。って、今はそれは良いんですよ。平均より上……その上の中でも下ではなく真ん中より上。それだけの強さを持っている自分を、あの人たちは弱いと……見た目通りの実力しかないと思ってるんですよ」
鑑定という相手の力量をある程度把握する方法を除いて、本人の観察眼がどれだけ優れているか……これに限る。
「だから……もう、次元が違うと思うしかないんじゃないかなって思ってます。だから、さっきも言った通りイラつきますけど、怒るだけ無駄というか」
「………………ふむ、なるほど。次元が違う、か」
次元が違うから、一々怒っても意味無い。
とても……とてつもなく上から目線のセリフであり、一般的に傲慢に捉えられる態度である。
ただ、実際にティールにはそういった態度を取れるだけの実力がある。
「なるほどなるほど。確かに、そう考えればティール側としても、致し方なし……という考えになるか」
「その、言い訳とかじゃないんですけど、別に日頃からそうやって見下してるとかじゃないんですよ? でも……一応、俺はギルドの依頼をちゃんと受けてきて、実績を積み立ててきて、ちゃんとBランクの昇格試験を受けて合格してBランクになりました。なのに初っ端からそういう見方をしてくるなら……もう、そう思うしかないじゃないですか」
大人びている……もしくは冷めている、冷徹。
とにもかくにも、ティールの目線は……本当に現実を認められない大きい子供たちより遥か上であった。
「まぁ、それでもやっぱりラストが怒ってくれるのは嬉しいよ。今日だって起こったけど、変に問題を起こすことなく我慢してくれたしさ」
「……うっす」
殺意を全開にして何名かを失禁させたのが問題なのか否かはさておき……自身の我慢を褒めてもらえたらラストは、それはそれで嬉しいため……照れを隠しながら料理を口に詰め込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます