喋る理由

「っと、よ」


大剣女にぶん投げられたラストだが、空中で体勢を立て直し……木の枝に引っ掛かることなく着地。


そして約十秒後には速攻で大剣女が到着。


「いやぁ~~、びっくりしたな。あんた、そんなゴツくなれるんだな」


あれは自分の油断だったと素直に認めるラスト。

何かしらの強化スキルはあるかもしれないと頭の片隅にはあったが、百メートル以上ぶん投げられるのは完全に予想外であった。


「リーダーの援護がなくなったってのに、随分と余裕ね」


「余裕、ではないが……まず、マスターの援護があったからこそ、お前を圧倒出来ていたと思われるのは、少し心外だ」


圧倒的なサポート力に快感すら感じていたが、あれは決してラストの好みな戦闘ではない。


「それと、俺は強敵との戦いを好む。この状況はむしろ俺にとって悪くない流れと言える」


「ふ~~~~ん…………そうやってあんまり自信満々にカッコつけてると、後で恥ずかしい思いをするよ。まっ、後悔する間もなく死ぬんだけど」


「それはこっちのセリフ、と言っておこうか。俺は今回……お前を殺さずに仕留めろとは言われてない」


何かしら怪しいスキル、もしくはスキル以外の何かを使用した筋肉の超強化。


単純明快なパワーアップだが、恐れる要素は全くない。

それはラストにとって……更に熱く燃え上がるスパイス。


「少し話し過ぎたな。続きをやろうか」


「そうね。殺す相手と、これ以上話しても意味はないわね」


どちらも強気な態度を変えず、ほぼ同じタイミングで駆け出し、両者の大剣が激しくぶつかり、火花を散らす。


「ッ!!??」


結果は……殆ど互角。

呪術を用いた強化は見た目だけではなく、確実にパワーアップしている。


だが、大剣に付与された斬撃の属性である岩石を纏い、更にパワーアップさせていたにもかかわらず、結果は互角。

しかも大剣に纏われていた岩石の接触部分は見事に切断されていた。


(あの前衛二人に、完璧異次元サポートを行えるガキに同行してる、竜人族!! 普通ではないと、思ってたけど、これはちょっとおかしいんじゃ、ないの!!!)


並みではないことは解っていた。

しかし、超強化を行った自分が腕力が重要な競り合いで負けるとは微塵も思っていなかった。


(あれで押し切れなかった、か。やはり、俺やマスターを、殺しにくるだけの、自信はあるみたい、だな!!!)


ラストは大剣女の斬撃を避けずに迎え撃つ瞬間、一瞬だけ両腕に竜化を使用し、腕力をパワーアップ。


もしかしたら、これだけでとりあえず相手の大剣は破壊出来るかもしれないと思ったが、結果は互角であり、そう甘くはなかった。


とはいえ……その結果に対し、ラストには微塵も焦りなどといった感情はなかった。


予想通り強く、タイマン勝負であれば圧倒的な勝負にはならず、熱い戦いが出来る。

今回の社会の裏側人間は前回戦った二人よりも強く、しかも何故か自分と同じ大剣使い。


自分と同じ武器を使う相手に苦手意識を感じることはなく、寧ろ燃えてくる。


「どうした、まさか……逃げたり、しないだろうな」


「あんまり、調子に乗るんじゃないよ!!!!!」


距離を取ったタイミングで纏っていた岩石を利用した遠距離攻撃。


当たればそれなりにダメージが入る嫌な攻撃。

ラストなら全力で破壊しにいきそうだが……今回はクレバーに回避を選択。


「チッ!! 素直に、やられときなよ!!!!」


「最近は、脳筋プレイばかりではいけないと、マスターに教わってな!!!」


ムカつく相手が現れた場合、無理してその場でおっぱじめるのではなく、相手を上手く挑発して訓練場に誘導させ……合法的に潰した方が良いと教わった。


今回はムカつく云々は関係ないものの、ラストにしては戦闘竜にやや喋っている理由は……そういう事がが上手く出来るかの実験でもあった。


因みにこの時、同じ組織の所属である男と対峙しているアキラに関しては、その場にティールが居ることは確定なので、一切殺られるかもという心配はなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る