予想外の返答

「かすめ取るってあれは……そもそもそっちが先に仕掛けてきたんだろ」


「では、俺たちと関わるなと言えば、本当に関わらなかったか?」


「当たり前だろ。こっちはあの時仕事中だったし、普通に問題無く仕事を終えたかったんだよ。そりゃ関わらなくて済むんだったら、関わりたくないっての」


「「…………」」


予想外の返答に、襲撃者二人は思わず固まる。


真っ黒な外套を身に纏い、フードは大きく顔を隠している。

そんな人物を見れば、寧ろ冒険者側から仕掛けてくるかもしれない……というのが二人やその関係者たちの見解だった。


「でも、こうしていきなり襲ってきたりしたら……逃がす訳には、いかないよな~?」


「同感だな。俺としては、マスターが別に逃がして良いと言っても、マスターをいきなり襲撃するような輩を逃しはしない」


「私としても、共に行動している友人を狙う輩を見逃す程甘くない」


三人共、一仕事を終えたばかりではあるが……戦る気に満ち溢れている。


「ふぅ~~~~……そう返されるとは思ってなかったな」


「そうね。これじゃあ、この子供たちに仕掛けたあのバカ共が本当にバカだったってことになるわね」


「そうだな。とはいえ、過ぎた事を掘り返しても仕方ない……ただ、俺たちは仕事を行うだけだ」


「それもそうね」


全員やる気になったところで、狙われたティールが開幕の風槍を乱射。


「「チっ!!!」」


既に疾風瞬閃だけではなく、豹雷も抜剣しており、恰好だけなら思いっきり斬り掛かって接近戦を行う気満々。


その状態から、避けなければおそらく当たってしまうであろう適当な風槍が乱射された。


男は避け、女は大剣で弾く。


「死ぬ覚悟は出来てるんだろうな」


「一切容赦せぬ」


ダッシュで標的へと近づき、ラストは女に……アキラは短剣を使う男へと接近。


(まっ、そうなるよな。なら、俺は全力で二人に合わせる)


多数のウィンドランスをぶっ放した後は疾風瞬閃と豹雷を握りしめてぶった斬る気満々だったが、二人が全速力で接近したため、即座に思考を切り替えた。


ティールはどちらかだけ二対一の状況をつくるのではなく、永続的に二対一の状態をつくると決めて、実行に移す。


ティールという人間は一人しかいないのに、どうやって永続的に二対一の状況をつくるのか?

バカかと、頭おかしいだろとツッコまれても仕方ない思考だが、ティールの攻撃方法は開幕初っ端に多数のウィンドランスをぶっ放した通り、接近戦だけが取り柄ではない。


分身は出来ないが……二つの戦況を冷静に把握して、同時に二人を援護することは出来る。


(うっ、わぁ………………これ、ちょっと頭痛くなるな)


実行するのは、ある意味傲慢なサポート。


ラストとアキラに後衛から行われる攻撃を気にして動かしはせず、ただただ一方的なサポートを行い続ける。


「っ!? 鬱陶しいね!!!!!」


飛んでくる万が一ラストやアキラの邪魔にならない範囲に留められた遠距離攻撃を強引に叩き落す。


「マスターとしては、本望だろうな」


「ぐっ!!!!!」


ラストの言う通り、自分を狙ってきた暗殺者たちが鬱陶しいと感じてくれるなら本望であり、もっと鬱陶しいと感じさせたくなる。


(おいおい、なんなんだあのガキは。攻撃魔法が使えるのは知ってた。前衛の仕事だけじゃなく、後衛の仕事も出来るのは知ってた……だが、これはおかしいだろ)


男はアキラが使う刀という武器に関して知識があり、適切な距離を保ちながら毒付きの投げナイフなどを使って厭らしい攻撃を行い……隙があれば、本命のナイフで仕留めていく。


確かに使い捨てとはいえ、厄介なが毒が塗られている投げナイフは非常に厄介であり、掠る程度でも効果がある。


直感でその危険度を悟ったアキラは避ける……もしくは弾いて対処し、普段であればそこに隙が生まれるのだが……それを狙って動こうとした瞬間、通ろうとした場所に攻撃魔法、もしくは斬撃刃や刺突が通る。


(こいつは……挑んではいけない怪物に、挑んでしまったかもしれないな)


今更後悔しても仕方ないというのはこの事である。

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