余裕があるからこその引き
「ねぇ、ティール君、あなた……その力目当てで寄ってくる令嬢たちには興味ないけど、確か……彼女を見つける為に、冒険者になったのだったかしら?」
昼食中、シャーリーはふと思い出したかのように、これまでの日々の中でチラッと聞いたティールの冒険者になった目的を思い出した。
「ゲホゲホっ! い、いや……その、なんと言うか、今よりも子供の頃……カッコ良くなくても、強ければモテるんじゃないかって……そんな思いで、強くなろうと必死でした」
そう……これまでティールに出会ってきた者たちからすれば意外かもしれないが、今よりも幼い頃には……割とガキ大将みたいな考えを持っていた。
「ふふ、やっぱり可愛いわね。ティール君もそんなことを考えてた時代もあったのね……でも、そう簡単に良い人は見つからないみたいね」
「……気になった人はこれまでに何人かいましたよ。けど、その…………あれです。恋愛より、友情を取ったというか……そんな、感じです」
目の前のシャーリーも、その気になったうちの一人である。
しかし……その気になってシャーリーにアタックし、上手くいってしまえば……どこかでそれを知った一人の令息が暴走して、誰かを傷付けてしまうかもしれない。
それによって傷付けられるのは、自分の弟子かもしれない。
そんなかもしれない可能性を考慮し、結局のところ行動に移すことはなかった。
「ふ~~~~ん? 確かに……ティール君らしいかも」
「そう、なんですか?」
「うん。ほら、ティール君は同世代の男の子たちと比べて、全体的に余裕があるじゃない」
戦闘力が同世代と比べて頭五つか六つほど飛び抜けており、懐の余裕も半端ではなく、一人で行動してるわけではなく……硬派なイケメン竜人族が相棒。
まだ年齢が若いというのも、余裕の一つ。
ティールはまった気付いていないが、そういった全体的な余裕が……一歩下がる要因にも繋がっていた。
「そんな余裕があるから、ここで本気にならなくても、って思いが生まれるんじゃないかしら」
「そう……なんですかね」
とはいえ、大人びてはいるが、これまでそんな自覚はなかった。
(余裕はある、かもしれない。多分、お金には絶対余裕がある…………けど、そうなのかな? 今の生活を捨ててでもっていう本気度? はあまりなかったかもしれないけど……そうか。あんまり、余裕があるってのは、良くない事なのかな?)
決して良くない事ではない。
そのまま結婚はせずとも、相手は確実に懐具合が気になるというもの。
「……シャーリーさん、俺ってもっとがっついた方が良いんですかね」
「え、えっと、それはどうかしら。私としては、普段のティール君みたいに落ち着いてるところが、興味を惹かれるポイントだと思うわ」
「そうなんですか?」
「そうよ。だから変に女性に対してがっつく必要はないわ」
お金は持ってる。
戦闘力はアホみたいに高い。
顔は……決して悪くはない。
だが、まだ人生経験が少なさそうな事を考えると、頭が回る小賢しい悪女に誑し込まれてしまうかもしれない。
そういったもしもの未来が浮かんだシャーリーは、お節介かもしれないと思いながらも、今の冷静な頭を……雰囲気を変に崩さない方が良いと伝えた。
「ま、まぁティール君なら今から十年経ったとしても、良い子が寄ってくる筈よ。その頃には、ティール君の好みなタイプが広まって、さっき話したみたいな目の付け所が違う令嬢たちは来ないと思うわ」
男は二十代前半になったとしても、能力があればまだまだ買い手が多い。
(でも、後十年もすれば……二人は確実にAランクになってるわよね。強くなる環境は貴族の方が揃ってるし………………む、難しい問題ね)
異性にモテたいという思いは確かにあったティール。
しかし、今は変にモテても困ると……贅沢な考えがある。
それでも今後の変化を考えれば、元貴族令嬢のシャーリーから見て……どう頑張ってもその未来は回避できそうになかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます