何日覚えてるかな

宴会を終えた数日後、昇格試験に参加した全員がギルドに呼ばれ……見事、全員Bランクへ昇格を果たした。


上級冒険者、と呼ばれるのは一般的にBランク以上の冒険者たち。

Dランクでも十分食って生活でき、Cランクになれば余裕を持って貯金もできるが、Bランクになれば更に得られる物が増える。


「バゼス。あなたは今後の活動中に仲間の意見を無視して、根拠のない自信を持って標的に突撃などした場合……降格の可能性もあるので、お忘れなく」


「お、おぅよ」


受付嬢の冷たい……非常に冷た~~い眼にほんの少し後退りながら、Bランクへとバージョンチェンジしたギルドカードを受け取った。


バゼスも降格なんてダサい真似はしたくないため、受付嬢からの言葉を深く頭に刻み込んだ。


(……多分、十日も経てば忘れるでしょうね)


(真面目な顔で受け取ったが……一か月も覚えていれば、良い方か)


(覚悟を決めた? ような顔をしていますが、どうせ明日には忘れてるでしょう)


(バゼスにしては、珍しく真面目な顔で受付嬢の話を聞いたわね……十日ぐらいは忘れずに覚えてるかしら)


それなりにバゼスの事を知ってる面子たちは、とりあえずバゼスがずっと頭に刻み込むことは出来ないだろうと、心の中で断言していた。


「んじゃ、今日も呑もうぜ!!!!!」


数日前に七人で呑んで騒いだばかりだが、合格祝いにまた全員で呑むのも悪くないと、全員同じ考えだった。


特にこれからの予定がないこともあり、その日の夜に再び集合。

ただし、今回は酒場ではなく少しお高いレストランを選んだ。


「……ティール君とラストは、随分と食べ慣れているというか……所作が綺麗ね」


「ですわね。見下していたとかそういう訳ではないのですが、思っていた以上にそれらしいですわ」


シャーリーとバルバラは貴族令嬢であるため、そういう食べ方は慣れていた。


酒場など、そういった部分を気にしなくて良いところばかりで食事を行っていたとしても、直ぐに切り替えられる。


「大金が入った時は、その街のこういった店によく行ってるんで、それでなんとなく……自然に身に付いた感じです」


「俺もそんなところだ」


完全に見様見真似。

しかし、貴族出身の二人から見れば……平民出身ということを考慮すれば、十分合格点だった。


「そういえば、ティール、ラスト。お前ら、ダンジョンに潜ったことが、あるんだったな」


「はい、森林暗危という名のダンジョンに潜ったことがあります」


「どんな感じだった。俺、今度所属してるパーティーでダンジョンに初挑戦しようと思ってんだよ」


バゼスがダンジョンに初挑戦ということに少々驚きながらも、ティールは森林暗危で感じた事を伝え始めた。


「……これは錯覚だと思うんですけど、いつもどこからか狙われてるって感覚が続きます」


「モンスターが一杯いやがるってことだな!」


「ま、まぁそうなんですけど……個人的には、あまりその視線? を気にし過ぎて神経をすり減らさないようにした方が良いと思います」


チラッと主人から視線を向けられ、ラストも当時の記憶を思い出しながら口を開いた。


「……転移トラップには、気を付けるべきなのだろうな」


「あっ! そういえばそうだったね」


自身は体験しておらず、主人であるティールが体験し、対処した転移トラップ。


ラストとしてはティールが戦ったメタルアーマードビートルという存在を今だ気になっているが、そもそも五十体以上のモンスターと戦わなければならず、最後にBランクモンスターであるメタルアーマードビートルが出てくるなど、絶望以外のなにものでもない。


第三者からの視点、価値観を冷静に考えた上で、ラストはそこが注意すべき点だと思った。


「後は…………いや、あれは俺たちだけの特殊なケース……だよな、マスター」


「どれの事、を……あぁ~、あれか。そうだな、多分あれは基本的には起こりえないケースだと、思うかな」


「ん? なんだ、お前らそんな珍しい何かを体験したのか?」


二人は別に隠す様なことでもなかったので、ダンジョン内で何を体験したのかを口にした。


すると……その時は珍しくバゼスまで少々表情を引き攣らせた。

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