正しい感情?

ティールがヴァルターに伝えた事は、戦闘中は心は熱く、頭は冷静に。

騎士や兵士だけではなく、冒険者たちの間でも先輩が後輩によく教える内容。


一件矛盾してる様に思える内容だが、実戦ではこの矛盾が起こり得る。

多くの戦闘者たちがこれを経験してるからこそ、後輩たちにそれを心掛けるようにと伝える。


「まっ、聖剣技と暗黒剣技を同時に使うってなると、もう少し他の感情を勉強した方が良いかもしれないけどな」


「ほ、他の感情とは、いったい……」


「落ち着け、落ち着け、ヴァルター。そんな前のめりにならなくてもちゃんと教えるから」


「は、はい」


ティールが実戦で起こりうる矛盾について教えてから既に何度も模擬戦を繰り返しており、既にヴァルターの魔力はすっからかんに近かった。


「先日話した通り、聖剣技は守って勝つ……俺個人の意見だが、誰かを守る正しい感情? ってのが大事になると思うんだ」


自分で言っておいて疑問符が浮かぶも、今のティールはそういった何となくでしか説明できない。


「それに対して、暗黒剣技は勝って守る……これも個人的な意見だが、怒りやそれに近い感情が力を引き出すトリガーになると思う」


「怒り、ですか」


「そうだ。なんとなくだけど、正しい感情の反対側である正しくない感情に近いと思わないか」


「……はい。なんとなくですが、近いと思います」


先日、ティールに暗黒剣技を持つ人物に対しての一理を聞き、物事に対して深く考えるようになったヴァルター。


「とはいえ、そういう感情も力を引き出す容易になる……と、思うんだよ」


「マスターはその矛盾? を成功させたことがあるのか」


「うっ! ど、どうだったかな……」


恐れていた質問が教え子ではなく、同僚から飛んできたことに戸惑いながらも記憶を振り返る。


(い、怒りがあって、誰かを守りたいとか正しい感情? があった戦いって言うと…………)


数分ほど本気で悩み、一戦だけどこれかもしれないという一戦が浮かんだ。


「ブラッディータイガーとの戦いが、その状態だったかもしれないな」


「おぉ~~、マスターにとって初めて戦った超強敵との戦いだな」


「いや、別にブラッディ―タイガーと戦う前にも強い相手とは……戦ってたぞ、多分」


「だとしても、苦戦に苦戦を強いられたのはブラッディ―タイガーとの戦いが初めてではないのか?」


「……言われてみるとそうかもしれないな」


丁度それらしい過去の戦いが思い浮かんだので、当時の状況をヴァルターに細かく伝えた。


「す、凄い……ですね」


「よせよせ。あれは本当に運が良かっただけだ」


「いえ、その……自分が同じ立場だったら、そこまで考えられたかどうか」


「そっちか。そっちは村で生活してた時から、ちょいちょい考えてたからな」


一人で村の外に出てモンスターと戦っていた時、もしこのモンスターが村を襲おうとしてたら……という事を何度も考えたことがある。


(まっ、いつもジンさんがいるから大丈夫だよなって考えに至るんだけどな)


だが、ブラッディータイガーと対峙した時は……最寄りの街であるソルートにはブラッディ―タイガーを無事に討伐出来るだけの戦力がなかった。

そのため、逃げながら他の冒険者と共に戦うという選択肢はなく……誰も死なせない為に、一人で戦うしかなかった。


「とりあえず、その時……守りたい気持ちと、討伐したいモンスターに対して怒りがあった……と思う。最後の最後に雲雷を使うっていう冷静な判断も下せたしな」


「……やはり、是非とも見たかった一戦だな」


「ラストがその場にいれば、一緒に戦ってたよ。っとまぁ、こんな感じです。でも、正直俺の意見だけだと足りないから……ラストはあるか?」


「……………………済まない。戦うことに対して熱くなった記憶は多いが、おそらくマスターが話した内容に当てはまる感情ではない」


「そうか。それなら、騎士の人たちにそこら辺を聞いてみるか」


魔力が回復するまで体を動かす訓練は一旦中断し、騎士たちの過去について聞いて回り始めた。

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