惜しい
まさに激闘。
周囲の地形、地面が壊れることを気にせず、ただただ目の前の敵を倒す為だけに竜人と巨狼は暴れる。
(ラストも超全開で戦ってるな。時折部分竜化も使ってるみたいだし……あのヴァルガング、スピードだけならややBランクを越えてるか?)
まだまだ目で追える。
しかし、実際相対すれば厄介だと素直に思えるほどの速さ。
そんな脅威の速さで動き回るヴァルガングに対して……ラストはアサルトレパードと対峙した時の様に、勝利のイメージが湧かないということはなかった。
(速さ、鋭さ、共に最高だ!!! この戦闘力、おそらくアサルトレパードより上だろう!!!!)
ラストが今まで戦ってきたモンスターの中でも間違いなくトップクラスの戦闘力と圧。
そして現在のヴァルガングは感情の爆発により、ややリミッターが外れていた。
完全にではないにしろ、逆にやや外れている方が切れるまでの持続時間が長い。
(楽しそうだな~、ラストの奴。本当に良い勝負だが……ヴァルガングの方が、やや限界か?)
強者が浮かべる笑みが絶えることはない。
とはいえ、心に油断はなく、最悪の状況を想定しながら戦い続けている。
ラストがヴァルガングとの戦闘楽しんでいる、もっと楽しみたいという思いが強いこともあり、無意識の内に防御や回避の練度が上がっていた。
「ガァアアアアアアッ!!!!」
「ぬぅああああああッ!!!!」
その結果、残り魔力の少なさを感じ、ヴァルガングは最後の一撃をラストに叩きこむ。
最速の一撃、ソニッククロウを叩きこみ、一矢報いる……ではなく、その命を奪い取ろうという執念を込めた。
対してラストはブレイクスラッシュを放ち、押し勝とうとする。
技を放ち終われば、高威力の代償が両手に返ってくるが、そんなこと構うことなく強攻撃を放った。
結果……ラストのブレイクスラッシュがヴァルガングのソニッククロウを破り、右前足が大きく裂けた。
「むっ…………それも、一つの終わり方か」
自身が最後に放てる最強の一撃で命を奪おうとしたが、あえなく敗れた。
もはや自分に出来ることはないと悟り、その場に座り……自身の首を差し出した。
「…………マスター、こいつの左腕を治してやってくれないか」
「ん? まぁ……別に良いぞ」
ダンジョンの高品質ポーションを取り出し、大きく裂けた右前足に全て与える。
「ッ……っ!?」
自分の右足に垂らされた液体が何なのか解らない。
しかし、ほんの少し鋭い痛みを感じたと思ったら……みるみると右脚が治っていき、痛みは完全に消えた。
「んで、ラスト。何がしたかったんだ?」
「いや、その……あれだ、凄く個人的な理由だが、ここで殺してしまうのは、凄く惜しいと感じたんだ」
「ふむ。確かにお前が言いたいことは解らなくもない。何と言うか、モンスターなのに一本、堅い芯を持ってると言えば良いのかな」
「??????」
ヴァルガングは自身が仕えていたゴブリンと同じく、王の素質を感じさせる人間と竜人族の会話の詳細は解らない。
ただ、自分について何か話をしている事だけは解った。
「でもさ、一応こいつの存在を見てしまってる同業者たちがいるわけじゃん」
「そうだな。そこが問題なんだ……やはり、ここで見逃すという選択肢は、なしか……」
未来がどうなるか、二人が解るわけがない。
悟〇とベジ〇タの様に上手くいくとは限らない。
何故なら……そもそも二人とヴァルガングは、明らかに違う存在。
二人はヴァルガングが自分たちに王の素質を感じていることなぞ知らないため、おおよそ何を考えているのかまで解らない。
目の前の巨青狼を見逃したところで、人を殺さないという確証はない。
それでも……二人の頭から、ヴァルガングに対して惜しいという単語が中々消えなかった。
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