僅かなノイズ

できれば戦闘は回避したかった。

ティールとラストが現れたタイミングで、ゴブリンジェネラルだけ連れて逃げれば、また群れを作り……王への道を歩めたかもしれない。


だが、ヴァルガングが惚れ込んだ男はただの暴君ではない。

同じジェネラル以上の力と魔力を有しながらも、決して仲間を見捨てようとはしない心を持つ。

だからこそ、更に惚れ込んだというのもあるのだが……やはり相手があまりにも悪い。


明らかに怪物と呼べる人間が二人。


一対二であればまだ勝機があると思っていたが、それでも数分も戦えば……結末が見えてしまう。

これまで幾度となく同じモンスターと戦ってきたヴァルガング。


人とモンスターとの表情には多少の差はあれど、戦闘を楽しむバカの笑みは何度も見てきた。

そして現在戦闘中の竜人は、当然の様に笑みを浮かべ、心の底から戦闘を楽しんでいた。


ヴァルガングの中に……どうすれば王の素質を持ったジェネラルを逃がせるか、という考えが浮かぶ。

自身の命がどうなろうとも、自身が認め……従った未来の王が生き残れば、それで良い。


忠臣という立場を考えれば、まさに立派な考えと言えるだろう。

しかし…………それは今考えるべきではなかった。


「あっ」


「ッ!!!!!」


ラストの口から、間抜けな声が零れた。


主人から許可を取っている為、ラストとしてはまだまだジェネラルとヴァルガングとの戦闘を楽しむつもりだった。

後方で観戦しているティールとしても、見応えがあるので後十分ぐらいは観続けられる。


だが、小さなミスが許されない戦闘の中……ヴァルガングの真の意味で戦闘には関係のない思考は……明確なノイズとなった。


「ギッ!!!!!!!」


そのまま振り下ろされていれば、ヴァルガングの頭部は半分ほど斬り裂かれ、間違いなく死を迎えていた。


しかし、その間に本当であれば守られる側だったジェネラルが間に入ったことで、ヴァルガングが死ぬことはなかった。

ただ……クロスしてガードした両腕は、見事真っ二つ。

それでもラストが間抜けな声を上げて中途半端な斬撃になってしまったからこそ、両腕を斬り裂くだけで済んだ。


「ッ!!! ギ、ギャァアアアアアアッ!!!!!」


両腕が斬り裂かれ。

それを即座に理解し……激痛を堪えながらも、ジェネラルはラストの首を噛み千切ろうと飛び掛かった。


「見事な闘志だった」


人の言葉などたいして理解出来ないだろう。

そう思いつつも、ラストは惜しみない賞賛をゴブリンジェネラルに送り、その首を刎ねた。


「…………」


ヴァルガングは目の前が真っ白になり、何も考えられなくなった。


(ふむ……どうするべきだろうか?)


今になって、ヴァルガングが何を考えたが故に、何故大きな隙が生まれたのか理解した。


従っていた未来の王を亡くし、完全に意気消沈してしまっている。


(もっと楽しみたかったが……こうなっては仕方ない。こちらも一応目的があって来た。悪いが、その首貰うぞ)


ラストが牙竜を振り上げた瞬間、ヴァルガングの両目がカッ!! と見開いた。


「ッ!?」


突然の変化にラストが一旦後ろに下がった瞬間、ヴァルガングは天高く吼えた。


その声には自身の不甲斐なさに対する怒りと、僅かな悲しみが含まれていた。


(ふむ……決別、そして今日の内に死ぬとしても、前に進むと決めたということか……面白い)


数は一体に減ってしまった。

今までの戦闘内容を考えれば、もう勝負は決まったも同然。


そう思うのが普通だが……強烈な戦意、闘争心を向けられているラストの考えは違った。

少し離れたところで、自身が戦っていないにもかかわらず……戦闘の際に浮かべる笑みが顔に出ているティールも同じ気持ちだった。


(すぅ~~~~~~……あのヴァルガングとなら、ちょっと戦ってみたいな。今から言えば…………いや、そりゃ駄目だよな)


素直に諦め、ティールは観戦に徹した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る