貴族がビビる?

「……ティール、お前バカか?」


テーブルの上に置かれているモンスターの素材を見て、若干呆れた表情を浮かべるジン。


「至って正常ですよ」


「いや、バカだろ。お前……これがここにあるってことは、これらの素材を使って自警団の装備をおやっさんに造ってもらうつもりだろ」


「はい、そうですよ。とても気合が入ってました」


「それはここにある素材を見れば解るっての」


テーブルの上にはDランクだけではなく、Cランクモンスターの牙や爪、骨などが多く置かれている。


「ティール、ここはそこそこ大きな都市とかじゃねぇんだぜ」


「どこにでもある村ですね」


「そりゃ俺が鍛えてっから、自警団の連中は皆強ぇけどよ……者には限度ってのがあるんだぜ」


「そうですね~。でも、こうして強い装備を造っていれば、何かあった時に村を守られる可能性がぐっと上がるじゃないですか」


「…………」


冒険者時代、Bランクのモンスターに蹂躙された村を見たことがあるため、そう言われるともう強く反論、否定は出来ない。


「ジンさんの新しい武器には、アサルトレパードの爪やメタルアーマービートルの甲殻とか角を使ってもらおうと思ってます!!!」


「…………そうか、ありがとよ」


アホか、バカかと言いたい。

しかし……顔を見れば、自分の為にという思いが強いと解り、何も言えない。


「なぁ、ラスト君よぉ。ティールはいつもこんなに太っ腹なのか?」


「そうだな……太っ腹と言うより、使う時は使う、といった感じだな。普段の生活に困っていないこともあり、惜しまない時は本当に惜しまない」


「そういう感じなのか。つっても、Bランクモンスターの素材だぜ……それにティール、お前これどこで手に入れたんだよ」


ジンが指さす方向にある物は……ミスリル鉱石。

ミスリル製の武器や防具は、一流の証。

そう言われるほど装備の質が向上し、それなりのお値段がする。


「運良く鉱山内でミスリルゴーレムと遭遇したんですよ。その時に討伐して手に入れた鉱石です」


「……昨日は聞いてなかったネタだな」


「そういえば、結局全部は話し切れませんでしたね」


一つのネタを話し始めれば、どうしてもそこから考察話などで盛り上がり、数十分は話し合いが続く。


その為、その日の内にティールは冒険譚を全て話し終えれなかった。


「個人的には、疾風瞬閃をくれたお礼ですよ。疾風瞬閃が貸してくれる速さに何度も助けられましたから」


「そりゃ良かったと本当に思う。いや、マジのマジで思ってるぜ? ただよ、他の連中の装備にもCランクモンスターの素材とか使うんだろ」


「素材は一杯余ってますからね。人数分はしっかり用意出来ると思いますよ」


「……もはや自警団とは言えないレベルだな。つか、ここら辺を納めてる領主から苦情が飛んできそうだ」


ジンの言葉に疑問符が浮かぶティール。


「村が助けを呼ばずに自分たちで問題を解決するんですから、別に良くないですか?」


「そりゃ俺たちは別に何もする気はないぜ。今の生活にそこまで不満はないしな。でもな、街や多くの村を収める貴族からすれば、一つの勢力が急に力を付けるのは、やっぱり不安なんだよ」


「なるほど。納得は出来なくない理由ですね」


「そうだろ」


「もしそういう苦情が使者を通じて来たら、周辺の村で起こった問題を、自警団で解決してみたらどうですか?」


特に金銭や減税を要求するわけではない。

私たちはあなたに反抗する気は特にないというアピール。


「それはそれでなぁ……他の村の連中がうちに嫉妬するだろ」


「もしかして、自分たちの村で起こった問題に手を貸さなかったら、ブチ切れるってことですか?」


「可能性としてはあるだろうな」


「無茶苦茶理不尽じゃないですか」


「冒険者として活動してきたなら、人間がどれだけ理不尽な感情で動くか、もう嫌というほど解かるだろ」


「…………」


身に染みて解っている為、今度はティールが何も言い返せない程固まってしまった。

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