口に出さなければオケー

ほぼ観光目的でウリープルにやって来た二人。


とはいえ、周辺に生息するモンスターのレベルは決して低くない。


「はは、元気な奴が多いな」


「そうだな。悪くない」


二人が戦闘中に笑みを浮かべるぐらいには、そこそこ強いモンスターがいる。


(これだけ強いモンスターがいれば、意外と飽きることはないかもな)


一日で岩窟竜の元へ到着予定だった二人。

しかし、意外にも襲い掛かってくるモンスターのレベルが高く、ついつい遊んでしまった。


結果、岩窟竜が拠点としている山に到着するまでの道中で野営が決定。

普段であれば多少は愚痴が零れるティールだが、その日の機嫌は上々。


いつも通り自身が発動した結界を信頼し、就寝。


「……意外と、頭が切れるというか、冷静な個体がいたのか?」


翌日、結界の外にはいくつかの血痕があった。


ただ……血痕があるだけで、肉や骨は飛び散っていない。


「マスターとしては、昼間にぶつかってきてくれると嬉しい相手、か?」


「それはそうだな。夜中に戦闘は勘弁してほしい」


腹が膨れる朝食を食べ終え、本日も昨日と同じく遊びながら目的地へ行進。


すると、いくつかのパーティーがちらほらと視界に映る。

あまり絡みたくないティールは、なるべく相手に絡まれない様に進み……岩窟竜が住む山のふもとに到着。


「……あそこら辺って、絶対に戦いで崩れた部分だよな」


視線の先には、かなりボコボコとしていた。

山の側面が全て滑らか……なんてことはあり得ないので、それ自体はおかしくない。


しかし、妙に削れた部分がいくつもある。


「岩窟竜が削ったのか、それとも挑んだ冒険者が削ったのか……おそらく両方だろう」


ラストの言葉通り、両者の攻撃によって山の形はほんの少し変形していた。


「よし、とりあえず会いに行くぞ」


ダッシュで岩窟竜がいるであろう場所に向かおうとするが、一つの列を発見。


(あれは……やべっ!)


岩窟竜について情報を集めたい際に手入れたものの中の一つを思い出し、駆け出そうとした足を急停止。


「……面倒だけど、並ぶしかないか」


「並ぶのか? 力で解決しても良さそうだが」


「やめろやめろ、俺は同業者と喧嘩したい訳じゃないんだ。それに……もし本当にそうなったら、ただの喧嘩とかで済まないかもしれないだろ」


鑑定スキルを使わずとも、ぱっと見で並んでいる者たち……全員が並以上だと解る。


ある程度解っている事もあり、亜空間からブラッディ―タイガーの素材から造られたバスターソードを取り出す。

主人の意図を察し、ラストも亜空間から斬馬刀を取り出しながら進む。


「今日一日で、俺たちの番が来ると思うか?」


「……無理じゃないか?」


人族の少年と、竜人族の青年という妙なペアの登場。

並んでいる冒険者たちの視線が二人に集まる。


普通に考えて、ペアで訪れるのは色々とあり得ない。

しかし……実力だけではなく、武器を見る目が肥えている者たちは、二人が装備している武器……皮鎧などが、そこら辺に転がっている代物でないと直ぐに見抜く。


(あの竜人族の奴……まだ若そうだが、結構戦りそうだな。あのバカデカい剣? をしっかり扱えるのかはちょっと分からねぇが)


(となりの子は……剣士、戦士? でも、持っている魔力の量が普通じゃない。魔力量を考えれば魔法使いでもおかしくないわね)


一瞬はこの場に不釣り合いと思いつつも、そもそもこの場に来れる時点で並ではないと思い出す。


「「「「「「ッ!!!???」」」」」」


注目されている二人も含めて、突然耳に入った爆発音の方向へ顔を向ける。


(今のは、魔法による爆発音、かな? 結構な音だな)


音の大きさで攻撃力の高さが決まりはしないが……全員が同じことを考えた。

もしかしたら、今の攻撃で……と。


(殺られた? まさか殺られた!? はぁ~~~、頼むから俺たちの番が来るまで生き残っててくれ!!!)


自分より前の冒険者たちに負けろと言っている様なものだが、口に出していないのでセーフ。

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