仕方ないツッコみ

「どうやら、あそこ……みたいだな」


「そうだな。しかし……見張りがオークとは、やはりトップの黒幕……女性攫いを始めたオーガは、よほど知能が高い。もしくは、他者を従わせる能力が高いのかもしれないな」


「考えたくない知能の高さと能力だな」


軽口でラストの言葉に応えるティールだが、頭の中は一秒でも早く特殊なオーガを殺すという考えで一杯だった。


「見張りは俺が殺る」


「了解」


時刻は既に夕方。

今から討伐戦を始めれば、野営を行うのは確実。


しかし、今のティールは「だからなんなんだ」と全く気にしておらず、オークやオーガたちを殺すことしか考えていない。


「ふっ!」


風の槍を超圧縮した針を飛ばし、一瞬にして武器を持ったオーク二体を瞬殺。


針サイズまで圧縮したため、脳を貫通した針が地面に刺さったところで、大した音は響かない。


「……どれだけ知恵を持ってるんだ?」


警戒しながら入口へ近づくと、オークの死体の手元には……手製の呼び鈴があった。


(敵襲があれば、まずは叫んで伝える。何かしらの方法で声を封じられた時、この呼び鈴を使って中に襲撃を伝えるつもり……だったのか)


人間らし過ぎる方法に、再び震え……冷や汗が止まらなくなる。


「マスター、数は……十数体。人質も十数人といったところか?」


「とんとんってところか」


「マスター……モンスターが人質を取った場合、どうする」


突入する前に、一番決めておかなければならないことを相談。


最低でも数秒は悩むだろう……そう思っていたラストだが、ティールは突入までの時間を掛けない為に……ではなく、予め決まっていた答えを口にした。


「加速してオーガを殺す。傷付けられる前に殺せば、特に問題はないだろ」


「ふっ、なるほど。確かにそれが一番良いな」


効率云々ではなく、そのやり方が自分にピッタリであり、ラストは主人の答えに即納得。


「それじゃ、いくぞ!!」


掛け声と共に、二人は警戒心マックスで洞窟に突入。


特殊なオーガの性格からして、洞窟内に罠が仕掛けてあることは事前に予測しており、全て回避しながら一体目のオーガと遭遇。


「っ!?」


(きっちり帯剣してる……まだ、この段階で見つけられて本当に良かった)


身体強化を発動しているティールの動きに反応はしたが……鞘からロングソードを轢く抜く前に、戦闘は終了。


洞窟内で仲間が死んだ。

その異変を感じ取った武装済のオーガたちは瞬時に集まり、大将と思わしきオーガまで幸運なことに前へ出てきた。


「な、なんなんだお前ら!!!!」


「……いや、流暢過ぎるだろ」


ティールは思わずツッコんでしまった。


シリアスな空気をぶち壊すかのようなトーンで、見るからに特殊なオーガの喋り具合にツッコんでしまった。


(こいつ……なんか、随分人臭い顔してるな)


人の言葉を流暢に喋る特殊なオーガは、オーガらしい筋肉質な体は持っているものの、顔がいかにも陰キャな顔をしていた。


ティールはまだまだ人生経験が豊富ではなく、出会ってきた人の数は、到底ジンなどには及ばない。

そんなティールであっても……目の前のオーガを見て、一つの言葉が浮かんだ。


(あれだな、いじめられっ子? って感じの顔だな)


戦闘に限れば、迂闊にも絶対に勝てるという自信が湧き上がってしまう。


(このなよっとした雰囲気を持つオーガ、件の……)


ラストも主人と同じ様な思考に至り、ある意味な戸惑いを隠せなかった。


「何なんだって言われても、お前に囚われてるであろう女性たちを助けにきたんだよ」


目の前のオーガが、あまりにも異質過ぎることもあってか、ティールは特殊なオーガの問いに答えた。


「っ!!!! んで、お前らみたいなのがよりによって……わざわざ、そんな事しなくても……どうせお前らみたいな奴なんて……」


「ん? 何言ってんだ、お前」


「お前らなんてッッッッッッッ!!!!!!」


「「ッ!!!???」」


ぶつぶつ呟き始めたかと思えば、いきなり洞窟内に響き渡る声を上げ、闇の魔力を解放。


何はともあれ、ようやく戦闘が始まった。

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