最悪を超える最悪
「マスター、どうなると思う」
「どうなるもこうも、失敗するか……誰かを犠牲にして、もしかしたら生きてる人実を救出来るかのどちらかだろうな」
「成功はあり得ないというわけだな」
「逆にあり得ると思うか? 冒険者という新しい戦力を投入したところで、数の力は増えても集団としての力は……寧ろ落ちるかもしれない」
足し算は出来ても、掛け算は出来ない。
主人の言葉に、否定できる隙間は皆無だった。
「最悪の場合、領主の娘が人質になって……更に最悪のケースに発展して、最後は死んでもおかしくない」
「領主が発狂しそうなケースだな」
「大事な娘がそうなれば発狂するだろうけど、それなら無理矢理縛ってでも止めろって話だ」
口では領主と領主の娘をボロクソに言うティールだが、早いとこ特殊なオーガの拠点を見つけたいという気持ちはある。
その気持ちは本物であり、翌日は野営覚悟でデブリフーリルから離れた山へと向かった。
勿論、移動方法はダッシュであり、パーティーの人数は変わらず二人。
それでも基本的にモンスターを無視して山のふもとを目指した甲斐あり、一日の間で大きく移動。
翌日の昼過ぎには到着出来る。
「マスター。女性攫いのオーガは、いったいどんな攻撃をしてくるだろうな」
「ギルドの情報としては、肉弾戦はしつつも、この前遭遇した武器持ちのオーガと同じ、オーガらしくない動き……後は、闇魔法を使ってくる。最後の奥の手は、なんだかんだで武器に大量の闇を纏ってぶちかましてくるんじゃないか?」
「原点回帰、ということか」
オーガらしくない戦い方をし、加えてオーガらしい身体能力を持つ。
偶にオーガらしい行動を行うという情報もあり、ティールは若干本当にオーガなのか怪しいという気持ちを持っていた。
(オーガ……に見えて、本当は体が大きくなり過ぎて、人付き合いが苦手過ぎる鬼人族の男……だったりしないよな?)
そんなもしもを脳内に浮かべるが、直ぐにあり得ないと判断し、首を横に振って掻き消した。
そして翌日、二人はある程度体力に余力を残しながら走り続け、予定通り山のふもとに到着。
(やっと着いた、けど絶対にこの山の何処かに居るとも限らないんだよな~)
隅々まで探してもいなかったら、なんて最悪な状況を考えると、身震いしか起きない。
ティールはネガティブな考えを振り払いながら、探索を開始。
「ブモ、ブボォォアアアアッ!!」
「ん? もしかして仲間を呼んだのか?」
探索開始から数分後、二人は一体のオークと遭遇。
すると、オークは自信満々に殴り掛かることはなく、すぐさま仲間を呼ぶような声を上げた。
「マスター、殺るか?」
「そうだな。あいつらの肉は美味いし、殺ろう」
多少数を増やしたところで、二人にとっては遊び相手にすらならない。
ただ……先日戦ったオーガの様に、違和感を感じずにはいられなかった。
「なぁ……もしかしなくても、こいつらもそういうことなのか?」
「もしかしなくても、そういうことみたいだな」
全員が何かしらの武器を持ち、それぞれ武器の手入れが行われている。
手入れの具合がプロに及ばないのは当然だが、それでも雑に扱われていないことは、一目で解る。
「女性攫いの主犯はオーガ、なんだよな」
「そう聞いてはいるが……いや、もしやオークを支配下に置き始めたのではないか」
「オークを支配下に、か。普通に考えても、無理な話ではないな」
オーガという種族は、精力と繫殖力を除けば、全ての面においてオークという種族に勝っている。
その力関係を考慮すれば、オークにもオークらしくない行動力、技術力が身についていても、なんら不思議ではない。
(……ッ!!!! やば、凄い鳥肌立った。まさかな……でも、そうだとしたらさっさと見つけないと!!)
一昨日考えていた最悪のケース……を遥かに上回る最悪を思い付いてしまい、ティールは止まらない冷や汗を無視し、探索を続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます