何はともあれ、良い経験だった

(我ながら、無茶をしたもんだ)


激闘の末、ようやっとアドバースコングの討伐に成功。


「はぁ、はぁ……まだ、残ってるんだ。早く、戻らないと」


幸いにも、現在ティールの方には他のモンスターがいない。

回復する余裕はある……が、ティールは忘れる前に、アドバースコングの死体からスキルを奪った。


「#単語__スナッチ__#奪取」


二回発動し、スキルと残っていた魔力を回復。


(……剛拳無双? 初めて聞くスキルだな)


何はともあれ、新たな力を手に入れた事に変わりはない。


ポーションもササっと飲み、体力以外は全快状態に戻り、最後の戦闘に向かう。

勿論、アドバースコングの死体は亜空間に放り込んである。


「おらっ!!!!」


先程まで疾風瞬閃と豹雷の二刀流で戦っていたティールだが、アドバースコングの戦い方に影響されたのか、己の五体のみでモンスターの討伐を行う。


いきなり手に入れた剛拳無双は使用しないが、使わなくてもティールの打撃や身体能力は一級品。


アドバースコングの様なBランクモンスターが相手であれば別だが、それ以外のモンスターであれば、その打撃だけで十分致命傷になり得る。


「……勝ったん、だよな?」


「そうだな……お前ら!!!! この勝負、俺たちの勝ちだ!!!!!!!」


今回の討伐戦でリーダーを務めていた男は、安堵して地面に腰を下ろす前に、同じく命懸けでモンスターパーティーに挑んだ同僚たちに自分たちの勝利を告げた。


「「「「「「「「うぉおおおおしゃあああああああああああ!!!!!」」」」」」」」


勝利の雄叫びが、十三階層中に響き渡った。


普通に考えれば、大声を出すとモンスターが寄って来る。

しかし、現在一か所に集まっている冒険者たちの数を考えれば……どんな馬鹿でも、自分が速攻で殺されることぐらい、本能的に解かる。


「マスター、お疲れ様」


「おぅ、ラストもお疲れ様」


「……俺は、そんなに疲れてない」


「なんの強がりだよ。そんな汗だくな状態で、疲れてないってのはちょっと無理があるぜ」


「むっ……そうだな。思っていたよりも疲れた」


普段は依頼が終わった後も比較的余力を残している二人だが、今は地面に腰を下ろし、力なく地面に転がっていた。


「あのモンスター……どうでしたか」


「アドバースコングなぁ。無茶苦茶恐ろしかった」


ティールは、強敵を相手に嘗めた対応は取らない。


これまでの強敵を何度も倒してきているが、未だに上から見下ろすようなことはしない。


「なんて言うか、攻撃を食らった時に……本当に自分が壊れる、死ぬイメージが浮かんだんだよ」


「っ……そうか」


斬撃ではなく、打撃で攻めれば良いのでは? と考える者もいるだろう。


ただ、そうなれば次に放たれる一撃が、純粋に強力になるだけ。

鈍く重い攻撃であれば、圧し潰す強さが増す。


ティールの様な体の中に押し通す形に近い打撃であれば、それはそれで貫通力も増してしまう。

どんな攻撃を放つにしても、初っ端で倒さない限り、厄介な攻撃が迫り続ける。


そして当然だが、いきなり心臓や首を狙おうとしても、さすがに自身の急所ぐらいは把握している為、当然警戒心は高い。


「まっ、いざこうして終わってみれば、良い経験が出来た思わなくもない……一応な」


「それは良かったな」


今回の戦闘で、ラストもそれなりに収穫があった。

何にしても、上々な結果であることに変わりはない。


「さて、とりあえず俺たちが倒したモンスターだけでも回収するか。ラスト、自分が斬り倒したモンスターは覚えてるか?」


「……あぁ、何となくは覚えている」


二人はまだ下ろしていたい腰を上げ、自分たちが討伐したモンスターの死体を亜空間に放り込んでいく。


普段なら「どれだけ容量があるんだよ!!!!」って突っ込みたくなる場面だが、今は全員疲れ切っているので、誰もツッコむ者がいなかった。

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