勝つより楽しめ

「なぁ、ティール……なんでお前はそんなに順調に勝てるんだ?」


「なんでと言われても……焦らずじっくり賭けてるから?」


一通りゲームを終え、ティールはそれなりにチップの枚数を増やし、ラストとディックスも決して負けてはない。

ただ、ボルガだけが初期量の四割ほど減らしていた。


「まぁ、チップが無くなったら声を掛けてくれ。また金貨を渡すから」


「あ、あぁ」


サラッと金貨を渡すと宣言したティールに対し、顔を引きつらせるボルガ。

確かに太っ腹すぎると思われるかもしれないが、モンスターの素材を全て持って帰れるティールからすれば、痛い出費ではない。


そしてなにより、ティール自身が今回もある程度の勝利を収めているので、もう一回ボルガに金貨二十枚を渡しても問題無かった。


「ラスト、何で勝負したい?」


「……ルーレット」


「よし。それじゃ、さっきと違うテーブルに座るか」


ルンルン気分でルーレットのテーブルに向かうティールを見て……二人は一つため息を吐きながらも、折角の機会なので気持ちを切り替えて全力でギャンブルを楽しむことにした。


そしてカジノに入ってから三時間経ち……四人は再び集合。


「やるじゃん、ボルガ」


ボルガのチップ量は別行動する時と比べ、倍ほどに増えていた。


「ディックスも順調に増やしたって感じだな」


ディックスはティールの賭け方を真似、徐々に徐々に慎重にチップの数を増やしていき、結果的には初期量の二倍以上までチップが増えていた。


「お、おう…………いや、ティール。お前ちょっと勝ち過ぎじゃないか?」


確かにボルガは結果的に勝つことが出来た。

その事実に変わりはなく、その事に関しては非常に嬉しく思っている。


ギャンブルに対しては少々恐ろしいイメージを持っていたが、それなりに楽しいゲームだと理解した。


ただ……目の前のティールが持ってるほど短時間でチップが増やせるとは思っていなかった。


「まぁ、ちょっと運が良かったな。でも、偶々勝負に出たタイミングで勝てたってのが大きい」


ティールは予定通り、それなりにチップの量が増えてからドキドキ感が大きめの勝負に出た。

そこで見事勝利をつかみ取り、チップの量を大幅に増やした。


とはいっても、チップの量が十倍になるほど荒稼ぎした訳ではなく、せいぜい初期量の四倍から少し程度。

ただ、ラストもティールが勝負に出るタイミングで、マスターが勝負に出るなら勝てるだろうと思い、一緒に少々ダイナミックに賭けた。


なので、ラストのチップ量も中々の量になっていた。


「勝負に出るタイミングか……やっぱりそういう流れ? みたいなのがあるのか」


「いや、別にそういうのはないような……単純に、そろそろ勝負に出ても良いかなって自分のタイミングで賭け額を増やしただけだから」


ボルガやディックスよりも場慣れしているとはいえ、ティールは今回でカジノに来るのは二回目。

そこまで細かいあれこれは分からず、今回は本当に運が良かったとケース。


「マジか。けど、必勝法なんてあればカジノ側なんて商売にならないし……結局は自分の意思に従うだけしかないってことか」


「そういうことだと思う。後、これは俺の知り合い……というか師匠? が言ってたんだけど、ギャンブルは金に余裕がある時にしかやらない方が良い。一度大勝しても、決してギャンブルだけで食っていこうと思ってはならない、勝とうとする気持ちより、楽しんで遊ぶ方が良い……らしいぞ」


「師匠って……元Bランクの師匠って人の方か」


「そう、そっちの師匠の言葉」


「そうか……確かに、ギャンブルのやり過ぎで破産するって人もいるしな。そういうのを考えれば、余裕がある時に遊ぶのがベスト、か」


「そういう事だな。よし、お楽しみの換金タイムだ」


四人は換金所に向かってチップを現金に換えてもらい、ティールは二人の分はそのまま二人に渡した。


二人は初期量から増えた分だけで良いと言ったのだが、ティールが無理矢理押し渡す形で終了。

四人は欲望の街から退出し、ひと眠りした翌日には再び遺跡に向かった。

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