違う圧を持っている

カジノの扉前に立っている黒服のお兄さん達はティールたちがしっかり正装しており、ティールが三人に軍資金を渡しているところを見ていたので、中に入っても問題無い客と判断して止めることはなかった。


(こ、こぇ~~~~。なんで黒い服着てる人たちってこんな怖い雰囲気を纏ってるんだ?)


見た目だけなら、ボルガの実家に仕えている騎士の中にも同じ様な威圧感を持っている者はいる。


だが、騎士が与える威圧感と何かあった時の為に動く黒服のお兄さんたちの圧は、少し種類が違う。


正義感を感じさせる圧と、違反や逃走は絶対に許さないと言わんばかりの圧。

そこが騎士と黒服のお兄さんが他者に与える圧の違い。


しかしそんなこと、ボルガやディックスが解る訳なく、ただただ恐ろしい存在だと感じた。


それでも……カジノの中に入ってしまえば、そんな黒服のお兄さんに対する怖さなんて吹き飛んでしまう。


「す、すげぇ……これが、カジノか」


「その気持ち、凄い良く解るぞ。俺も初めてカジノに入った時は、そんな感じでポカーンとしてたからな。ラストはどうだ、ちょっとはびっくりしたか?」


「あぁ……そうだな。さすがに目の前の光景に驚いている。こんな場所があるとはな……うむ、少し戦闘とは違う熱気が多いな」


言葉には出さないが、その熱気から来る欲がラストは少々恐ろしいと感じていた。


二人もほんの少し、大人の世界に入り込んでしまったとも思い、恐ろしさは感じていた。

しかしそれよりも、カジノという場所の煌びやかさに興味津々、好奇心マックスな状態となっていた。


「それじゃ、とりあえずその金貨二十枚をチップに変えるぞ」


ティールは直ぐにそれらしき場所を見つけ、まだ驚き戸惑っている三人を誘導。


金貨二十枚をチップに変えてもらい、いざ欲望の戦場へと向かう。


「最初は小さい額から……堅実に賭けた方が良いぞ。じゃあな」


「ちょ、ちょっと待ってくれ! え、一緒に回ってくれるんじゃないのか?」


「いや、別々にって思ってたけど……あっ、ルールを知らないのか」


「る、ルールはなんとなく知ってるけど……あれだ、やっぱりその、ちょっと不安なんだよ」


「あぁ…………ふふ、そうみたいだな」


チラッとディックスの方に顔を向けると、いつものイケメンフェイスが崩れていた。


「分かった。最初は一通り一緒に回ろう。ある程度遊んだら、全員好きなように動く……いや、ラストは何かあった時、俺が傍にいた方が良いから一緒に回るか」


「あぁ、その方が良いだろう」


今回も表情にこそ出してないが、ラストは一通り遊んでからもティールと一緒に回れることにホッとしていた。

正直なところ、ラストは賭け事で上手く勝てるとは思っておらず、もしかしたら他の客といざこざを起こしてしまうかもしれない……と、そこを心配に思っていた。


「それじゃあ……まずはルーレットからかな」


空いている席を発見し、ティールは三人に軽くルールや賭け額の説明を行い、一回ゲームが終わってからようやく参加。


ティールが三人にルールを説明している間、他の参加者やディーラーは微笑ましい表情で三人を見ていた。


「よ、よっしゃ!! 当ったぜ!!!」


「あぁ~~~、負けちゃったよ」


「……マスター、俺は勝ったんだよな」


「あぁ、そうだな。きっちり勝ってるぞ」


初めてルーレットでギャンブルを行った結果、ボルガとラストは初勝利を収め、ディックスは運悪く負けてしまった。


ティールは最初に勝って気持ち良くスタートしたいと思っていたので、手堅い場所にチップを置き……見事勝利を収めた。


(今日の内に一回ぐらいはがっつり勝負したいけど……まっ、さすがにもう少し増えてからじゃないとな)


ティールの財産を考えれば、もっと大金をチップに変えていきなり大勝負できるが、それではティール的につまらないので今回も徐々にチップを増やす方向で賭け続けた。

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