意識を自分に向ける

「それじゃ、こっからが遺跡だ。詳しく調べたい場所があれば言ってくれ。移動するペースを落とすから」


遺跡の中は森の中と比べて奇襲を受けやすい場所だが、四人には絶対に怪我をさせない。

ティールとラストは気合を入れなおし、六人は遺跡の中へと入った。


ティールとラストにとっては、もうそれなりに見慣れた光景。

だが、ボルガたちにとっては始めてみる光景なので、入った瞬間……その光景に少々見惚れていた。


「凄い……って、ティール君。それ、大丈夫なのかい?」


「あぁ、大丈夫だよ。ディックスたちを守るのに全く支障はないから」


「そ、そうか。それは頼もしいね」


ヤドラスの遺跡内部は基本的に暗い。

闇夜の景色に慣れていれば別だが、そういった場所での行動や戦闘に全く慣れていない四人にとっては非常に動き辛い場所。


しかし、ティールがいくつもライトボールを宙に浮かせている事で、非常に視界は良好。


「ティールやラストは、もう何度もここに来てるんだよな」


「あぁ、そうだな。森の中で狩りをしたり討伐依頼のモンスターを狩ったりするけど、元々はここの遺跡の探索メインで来たからな。まぁ……それなりにここは探索してると思う。まだ全部を探索できたわけじゃないけどな」


ティールとしてはヤドラスの遺跡をある程度探索し終えれば、次の街に移ろうと考えている。


「最近は特に珍しい現象? に遭遇することはないけど、少し前にどっかで保管……されてた? ヴァンパイアをうっかり復活させてしまったパーティーがいてな。いや、別にわざとではないか。んで、偶々そのパーティーがヴァンパイアと戦ってるところに俺たちも参戦したことがあった」


「ヴぁ、ヴァンパイアって確かBランクのモンスターよね。二人が生きてるってことは倒したんでしょうけど……やっぱり、それなりに強かったのよね」


「多分、それなりに強かったとは思うけど……俺はヴァンパイアが召喚したレッサーヴァンパイアと戦ってたからな。ヴァンパイアとバチバチに戦ってたラストの方が詳しいぞ」


気になる四人は一斉にラストに視線を向けた。


「……強かったな。体感ではリザードマンジェネラルの方が強いと感じたが、ヴァンパイアが長い眠りから目覚めたばかりだから思い通りに体を動かせていなかった可能性がある。そこを考えると、どちらの方が強いのか断言するのは難しいが……ヴァンパイアとの戦いも、マスターが貸してくれた武器がなければ危なかったな」


リザードマンジェネラルとの戦いに勝利し、確実にレベルアップしたラストだが、心の中に驕りが全くなかった。


「いずれは武器に頼らずとも……マスター、向こうから何体かやって来るぞ」


「こっちをロックオンしてるか?」


「おそらく、俺たちを既に獲物として捉えている」


「そうか……なら、迅速に仕留めるしかないな」


ライトボールの明かりの先から現れたモンスターはシープジャッカル。

数は六体と少し多く、群れでの戦力はCランクのモンスターに匹敵する。


「マスター、奥に一体だけ体が大きい個体がいる」


「だな……種族はいたって普通のシープジャッカルっぽいから、特別体が大きくなった個体なのかもな。ラスト、任せた」


「了解」


シープジャッカルの司令塔である体が大きい個体はラストが相手をし、残りの五体は全てティールが相手をする。

ボルガたちも万が一を考えて臨戦態勢に入るが、ティールは瞬く前にシープジャッカルの首を切り落とした。


一瞬で仲間が殺されたことで残りの四体はティールに意識が集中。

そうなれば、もうティールはシープジャッカルが自分を越えてボルガたちを狙うという不安を消化。


ティールに突進して攻撃する個体、とりあえずその場から動く個体。

動きはバラバラだが、それでも意識が自分に向いていれば問題無い。

シープジャッカルが身体強化を使用しても、ティールはあっさりと視界に潜り込んで首を斬り落とす。


人であれば、仲間が何度も首を斬られていけば、自分も同じく首を狙われるかもしれないと予想が出来る。

シープジャッカルは予想するのではなく、モンスターの六感が首に注意しろと警告してきたが、何とかする前に五体とも地面に首が落ちた。


「ふぅーーー……そっちも終わったみたいだな」


「あぁ、とても温い攻撃だった」


体が大きいシープジャッカルはラストに渾身のぶちかましを放ったが、あっさりと大剣で受け止められ、頭に鉄槌が炸裂。


威力は脳まで到達し、そのまま撃沈した。

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