理屈は納得出来ても……

「「「「…………」」」」


Dランク冒険者たちの中で、ラストに戦いの中で助けられた女性冒険者や、単純にラストの戦う様に強さを感じた冒険者たちはティールに冷たい目を向けていた。


その理由は単純……ラストがティールの奴隷という立場だから。


戦闘用奴隷を仲間にしている冒険者はそこまで珍しい訳ではないが、あまりそういった同業者を見たことがないという者も少なくない。


(なんでラストさんがあの子供なんかに……)


ラストに間一髪のところで助けられた女性冒険者は、完全にラストに惚れてしまっていた。

それ故に、奴隷であるラストのマスターであるティールに恨めしい目を向けてしまうのは……やや仕方ないかもしれない。


だが、ティールは白金貨四枚という値段でラストを正当な方法で購入。

そしてラストの喉を治すために教会のシスターに頼み、白金貨一枚を払って治してもらった。


普段の生活でも適当に扱うのではなく、一人の仲間として認識し、接している。

奴隷という立場を除けばどこにでもいる冒険者と同じ扱いをされているのだ。


当の本人であるラストも自身の現状に対して全く不満を持っていない。


それらを含め、女性冒険者たちがラストのマスターであるティールに批判的な言葉をぶつけたり、恨めしい目を向けるのは間違っている。

冷静に考えれば分かることなのだが………恋した乙女や、尊敬の念を抱いた者にはそのような冷静な判断が下せない。


しかし今のところ無事討伐に成功した祝いの場ということもあり、女性冒険者たちは怒りの感情を……声をティールにぶつけるようなことはしない。


ただ、先輩冒険者たちと会話しているティールはこちらにイギルたちとは少し違った嫌悪感が含まれる視線に気付いていた。


(なんか……氷の様な冷たい目を向けられている気がするんだが……気のせいか?)


そう思って一瞬だけ視線を感じる方向に目を向けると、ティールの勘違いではなく、がっつり冷たい目を向けられていた。


(や、やっぱり俺の勘違いじゃなかったな。今回の討伐であそこら辺の冒険者とは絡んでないと思うんだけど……もしかしてあの人たちも、俺が冒険者のランクに興味がないって言ったことに関してムカついてるのか?)


そうではない。

その気持ちが一ミリも無いかといえば、そうでもないのだが違う。


女性冒険者たちはそこではなく、ラストの立場についてキレていた。


(ったく、若いってのは良い時もあれば面倒な時もあるな)


ラストの「俺はマスターの剣で盾だ」という言葉に反応した一部の冒険者を察知し、それに気付いた先輩冒険者たちは心の中でため息を吐いた。


(あいつらの気持ちは少しぐらいなら解るが、どっからどう見てもティールはラストを一人の仲間として接してるってのに……いや、あいつらからすればそういう問題じゃないんだろうな)


理屈で納得出来る問題ではない。

それを直ぐに察したが、だからといってDランクの冒険者たちがどうこう出来る問題ではない。


(ラストが現状に不満を抱いてるとかなら、俺らもどうにかしてやりてぇなと少しは思うが…………そんな様子は一切ねぇ。つか、人の奴隷問題に首をツッコめば、最悪の場合牢屋にぶち込められる可能性があるのはあいつらも知ってる筈なんだがな)


どんな理由があれ、人の奴隷を無理矢理奪おうとすれば、それは普通に犯罪。


完全に真っ黒な方法ではあるが、所有者が死んだ後に奴隷の所有権を誰かに譲るなどといった契約書がない場合、所有者を殺せば奴隷は発見者の者となる。


ただ、よっぽど上手くやらなければ捕まってしまう可能性が高い。


そして仮に女性冒険者たちがその真っ黒な方法を実行しようとしても、呆気なく返り討ちにされて牢屋にぶち込まれてしまう。


(……一応釘刺しておくか)


若者は一時の感情で暴走しやすい。

それを解っている先輩冒険者は若者がまだまだ先が長い人生を無駄にしない為、宴会が終わった後に忠告しようと決めた。

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