死線を乗り越えたばかり……

「おいおい、狙っていたのか?」


「真打登場……といったところか」


コボルトとオークの数には及ばないが、狙ったタイミングでモンスターの集団が現れた。


「はぁ~~~~、ちょっと戦いに集中し過ぎてたみたいだね。ティール君、ラスト君。まだ戦えるかい」


「はい、大丈夫です」


「無論だ。体が暖まってきたのだから、寧ろこれからだ」


ルーキーがまだまだ動ける、戦えるという意思を示した。

そんな後輩の姿勢を見て、先輩が折れた姿を見せるわけにはいかない。


「ギッギッギ」


「コボルトとオークの群れと戦った後はリザードマンの群れかよ……へ、上等だ。やってやろうじゃねぇかよ」


「あまりにも良いタイミングね。もしかして元々敵対してたのかしら」


「その可能性は高いだろうな」


何故このタイミングでリザードマンの群れが姿を現せたのか。

ティールとラストも含めて、リザードマンたちがコボルトとオークの集団と敵対していたから。


そういった理由しか頭に浮かばなかった。


(偵察に来ていた一体のリザードマンが俺たちがコボルトとオークを全滅させそうだから、他の連中を連れてきて……ついでに俺たちを殺して自分たちの経験値にしようって考えかな)


流れ的には漁夫の利を得る形だろう。

だが、二人はこんな状況でも全く諦めておらず、寧ろ殺る気に満ち溢れている。


他のルーキーたちはやっと死線を越えたばかりなのに、今度はリザードマンの群れが自分たちに襲い掛かろうとしている。

この状況に絶望する者……思わず漏らしてしまう者までいた。


ティールとラストが異常であり、そうなってしまうのが一般的なルーキーの感情。

基本的には先輩たちが主導でコボルトとオークを倒すとはいえ、それなりに上位種がいた。


そして奥には二体のジェネラルが立っており、頼もしい先輩がそばにいるとはいえ、死の危機は感じていた。

その危機を乗り越えたかと思えば、Dランクのパーティー一つが一体と戦ってようやく倒せるようなリザードマンの群れが現れた。


コボルトとオークと同じく、群れの中には上位種と思わしき個体がチラホラといる。


だが、Cランクの冒険者たちはティールとラストのやる気に触れ、不思議とテンションが上がって生き残れる気がしてきた。


何処からどう見ても敵は自分たちを狙っている。

いったい誰が開戦の火ぶたを切るのか……沈黙が空気を支配していると、一人が雄叫びを上げてリザードマンの群れに突貫した。


「「「ッ!!??」」」


そのまさかの人物に先輩冒険者たちは唖然としてしまったが、直ぐに馬鹿を後ろに下げる為に全力ダッシュ。


開戦の火ぶたを切った人物はイギル……先日ティールに絡んで二回ほど吹き飛ばされたDランク冒険者のイギルだった。


蛮勇かどうかはさておき、恐怖を乗り越えて強敵に斬り掛かった度胸は褒めるべきところだろう。

しかしその攻撃が効くかどうかは話は別。


ティールでさえこの状況は少々不味いと思い、偶々近くにいたオークの死体から奪取≪スナッチ≫でスキルと魔力を奪った。


一時だけ戦況をラストに任せてスキルを奪い、魔力を集めようかと考えていた。


そして……リザードマンたちからしても、イギルが一番槍として襲い掛かってくるのは予想外だった。

ある程度あの辺りの人物たちが主力なのだろうと見極め、構えていたが……まさかの襲ってきた一人目は下っ端だと思っていた人間だった。


「がっ!!??」


目の前の人間は全員殺すつもりだったが、何故か手に持つ剣を振り下ろして殺す気にならず、イギルの大剣が触れる前に腹に蹴りを入れた。


その蹴りでイギルが死ぬことはなかったが、それでも胸骨に罅は完全に入った。

もう一歩深く蹴られていたら、折れた胸骨が肺や心臓を傷付けた可能性はゼロではない。


「勇ましいのは良いが、今は下がっていろ」


蹴り飛ばされたイギルをラストが受け止め、パーティーメンバーの元に放り投げた。

妙な流れではあるが、戦いは始まってしまい、ティールはそのままリザードマンに斬り掛かった。

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