様々な方法を使う
「まぁ……ありましたよ。ただ、あまり一度に上げるのは良くないってことで、今はまだDランクなんです」
「なるほどね。確かに一気にランクが上がると面倒な人たちが絡んでくるよね」
ニーナたちはそういったことを体験したことがある。
ティールほど急激にランクを上げた訳ではないが、それでも全体的に見ればCランクに上がるのはかなり早かった。
ここで良かった点は、一定数の先輩冒険者たちから気に入られていた。
速足でランクを上げていくルーキーを妬むのは、同じルーキーだけではなく長年EやDランクでくすぶっているベテラン冒険者も同じ。
何故自分たちは長年このランクで留まっているのに、このガキどもはさっさと駆け上がっていくのか。
才能が違うのか……それとも努力の量が違うのか。
運という要素もその差の要因となるだろう。
「早い段階で上に上がるルーキーに付いて回る面倒なあれだよな。ティールも絡まれたことあるのか?」
「俺は今のところ特に……いや、一回だけあったような」
ヤドラスの遺跡を探索している時、キラータイガーと遭遇する前に一つのパーティーと遭遇した。
その際、ビッガスという冒険者にやや面倒な絡まれ方をしたが、リーダーのパルイダが止めたお陰で戦闘にはならなかった。
「とりあえず乱闘になることはなかったです」
「そうか、それは良かったな……いやでも、ティールとラストなら、そこら辺の冒険者が襲ってきたとしても、余裕で返り討ちにされるよな」
装備している武器の性能が並ではない。
そして二人の身体能力は魔法の腕も平均を大きく超えている。
どう考えてもベテランがなんとか出来るレベルではない。
「……そうかもしれませんね」
ティーラスの言葉に対して、特に否定はしなかった。
実質、Bランクのモンスターを一人で倒せる冒険者は多くない。
ティールは一人でブラッディ―タイガーを倒し、ラストはヴァンパイアを一人で倒した。
二人とも強力な武器を使ったとはいえ、それだけで楽に倒せる相手ではない。
強大な力を持ちながらもルーキーに絡む傲慢で厄介な輩は確かに存在するが、大半はDランクやCランクで停滞する者たちが下の者たちに絡もうとする。
「ティール殿やラスト殿であれば、勘違いした連中など容易に潰せるでしょうが……Dランクや私たちと同じCランクの者ともなれば、裏の連中と繋がっている可能性があるかもしれません」
冒険者ギルドが表のギルドだとすれば、裏のギルドには暗殺ギルドというのが存在する。
その名の通り、依頼された対象を暗殺するギルド。
依頼内容はただ対象を暗殺するだけではなく、拷問を行ってから殺すなどの内容も料金によっては引き受ける。
「……キラータイガーより、暗殺に長けていますか?」
「む……それは少し難しい質問ですね。並みの域を出なければキラータイガーを討伐したお二人の敵ではないと思いますが……暗殺ギルドに所属する者たちはただ暗闇から対象を殺すのではなく、様々な方法を使って敵を殺そうとします。なので、街中を歩いている時に自分たちを付ける視線を感じたなら、警戒した方が良いかと」
見た目を変えるスキルや、マジックアイテムを使って外見を変えて近寄り、一目がないところに誘導。
そしてサクッと殺す。
街を見張る兵士たちも万能ではなく、裏の者たちは抜け道を知っている。
それと……そういったギルドは多少金を持っている一般人だけではなく、権力者も利用する。
だからこそ、一般的には存在してはならないギルドだと分かっていても、中々潰されないのが現実。
「なるほど、結構厄介そうですね。ただ、今のところそこまで面倒そうな人に絡まれてはいないので、心配しなくても大丈夫そうですけど……」
「ティール君、このヤドラスにはまだ完全に調べ尽くされていない遺跡があるからこそ、他の街と比べて多くの人がやって来るの。その中に馬鹿なことしか考える能がない、面倒な連中もいるの」
シルは過去に絡んできた厄介な連中を思い出し、苦虫を潰したような顔になる。
ニーナやセイラも過去に似た様な体験をしたことがあるので、自然と杯を持つ手が強まる。
「あなたは十分珍しい存在。そして一緒にパーティーを組んでいるラスト君もそれは一緒。だからいつも適度に警戒することに越したことはないわ」
「……分かりました」
先輩からのお言葉ということもあり、そっと頭の片隅に置いた。
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