考えがぶっ飛んでる
「ツインヘッドベアーとサイクロプスを一人で、ねぇ……確かにそれだけの実力があるなら、ソロで行動しても平気だと思うのは仕方ないわね」
レッサーヴァンパイアをあっさりと倒す様子を観ていたので、シルはティールがツインヘッドベアーやサイクロプスを一人で倒したという話は一切疑うことなく信じた。
一人で旅するには、外敵から身を守る術が必要なのだが……何かしらの道具やスキルを持っているのだろうと思い、一人で旅をする力もあると納得。
「あの、ちなみになんですが一体どうやってその二体は倒したのですか? ティールさんならCランクのモンスターであっても一人で倒せるとは思いますが、簡単に倒せる敵ではないかと……」
Cランクのモンスターも実力はピンからキリまであるが、ティールが最近戦った珍しいモンスターである二体は、どちらも戦闘に特化した個体。
真正面から戦うことになれば、ベテランの冒険者でも全く気が抜けない一戦となる。
「俺は身体能力的には、スピード寄りですからね。ツインヘッドベアーやサイクロプスはパワー寄りのモンスター。スピードで翻弄すれば倒すのはそこまで難しくないですよ」
実際のところは、そう簡単な話ではない。
ツインヘッドベアーやサイクロプスにしろ、完全な鈍間ではない。
それはニーナたちも分かっている。
だからこそ、速ければ倒すのは難しくない。
そう言ってのけたティールの力量に、今一度驚かされる。
(速ければ、力だけのモンスターなど敵ではない、か……スピードに自信がある獣人族であれば、一度は断言してみたい言葉だ)
アルスは脚力に秀でた種族、狼人族ではあるが職業的にはメイジ。
しかし、体を動かすのが不得意という訳ではない。
仲間を守る為ならば喜んで杖を捨て、己の脚と爪で敵を引き裂く。
確かに力自慢だけの敵は倒しやすいかもしれないが、敵も決して馬鹿ではない。
一人で戦っていれば、いずれ動きを学習し……野生の勘でぶち当ててくる。
更に頭が回る個体であれば、計画的に潰そうとする可能性もある……ティーラスもそれなりに速さには自信がある。
シルも森の中であれば健脚を活かせると思っている。
だが、ツインヘッドベアーとサイクロプスをソロで倒せるかと聞かれれば、出来ないとは答えない。
武器と時間があれば、決して不可能ではないから・
ただ……仲間と一緒に戦うよりも、断然死ぬ可能性が高い。
それを考えると、決して一人では戦いたくない力を持つモンスターと言える。
「ティール君は、依頼を受けてその二体を倒したの?」
「サイクロプスはこの街に冒険者ギルドに痕跡を探して欲しいという依頼があって、それを受けたんですけど……そのまま倒すのもありだなと思って、ギリギリ日が暮れる前に発見して倒しました」
痕跡を探してくれという依頼を受け、そのまま倒すのもありだと思い、その日の内に発見して倒してしまう。
ルーキーが口に出す言葉としてはあり得ない。
だが、ラストはそれを聞いて寧ろ納得していた。
あのティールがただそれなりに戦えるモンスターの痕跡だけを探して満足するはずがないと。
ニーナたちも、あまりにも命知らず過ぎる……と思ったが、その考えを直ぐに払しょくした。
強力な武器を使ったとはいえ、単独でヴァンパイアを討伐した竜人が付き従う冒険者。
自分たちの想像で収まる筈がない。
「はっはっは!!! やっぱり考えがぶっ飛んでるな!! なら、ツインヘッドベアーはどうしたんだ?」
「ここに来る前に立ち寄った街で頭が二つ、そして腕を四本持つモンスターが冒険者を狩っている、みたいな話を聞いたんでちょっと探しました。ヤドラスの遺跡を目指して移動してたんで、あまりにも見つからなかったらスルーしようかと思ってたんですけど、案外簡単に見つかりました」
「なるほど、そういう経緯だったか。街を困らせていた個体なら、報酬金が貰えたんじゃないのか」
「こっそり職員に報告したら、ギルドマスターに呼ばれて直接報酬金を貰いました」
「そうなるでしょうね。Cランクのモンスターとはいっても、街によっては脅威になる。倒せば依頼が張り出されていなくても、倒せばそれなりの報奨金が貰える……一人で倒しんだから、ランクアップの話が出たりしなかったの?」
現在、ティールのランクはD。
ソロでCランクを倒せるなら、ランクアップするチャンスがあってもおかしくなかった。
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