その距離は届く

森に入ってから探せるだけは探した。

しかし一向に姿……手掛かりすら見つからない。


(このまま帰って報告しても何も言われないだろうけど、やっぱり何かしらの手掛かりを見つけてから帰りたいな)


もうサイクロプス自体を見つけるのは諦めた。

それでも、何かしらの手掛かりを見つけたい。


そんな思いでもう少しだけ捜索を続けようと決めた。


「ん? 悲鳴、か」


微かに聞こえた悲鳴。そして戦闘音。

もしかしたら同業者が死にかけているかもしれない。


そう思ったティールは迷いなく悲鳴と戦闘音が聞こえる方向へと走り出す。


「見えてきたな……なるほど、ちょっと荷が重い相手だな」


視界に入った冒険者の数は六と、少々多い。

そして冒険者と戦っているモンスターはオークが二体と、オークソルジャーが一体。


(視る限り冒険者たちは俺と同じ……もしくは一つか二つ上程度。てか、昨日ギルドの訓練場から出てきた奴らか? それなりに実力があるルーキーなのかもしれないけど……まっ、勝つのは無理だな)


エリックとリーシアなら勝てる。グレーグリズリーを追い込んだ二人ならこの状況を打破できる可能性はある。

そう思うと同時に、やはり二人ほど才能と実力を持つルーキーはいないなと思い、戦いの間に割って入ろうとする。


「助太刀する。てか、俺が相手をする」


「えっ?」


後から弓で援護していた女の子は急に耳に入ってきた声に驚き、後ろを振り向くと既にそこに声の主はおらず、長剣を抜いて風の魔力を刃に纏っていた。


(さて、サクッと倒そう)


いつも通り身体強化と脚力強化を使用し、一気にオーク二体との距離を詰める。

先程まで弱者を虐めるように遊んでいたオーク二体は突然現れた強者の動きに反応出来ず、一瞬でその首を切断されてしまった。


「ッ、ブモオオオオオオオオオオッ!!!!!!!!!!」


「へぇ、ソルジャーって感じだな」


ティールの強さを一瞬で感じ取ったオークソルジャーは今まで生きてきた中で最速の動きで大剣を抜いた。

それだけではなく、瞬時に身体強化のスキルを使って刃に魔力まで纏った。


(中々判断が速い。それなりに生きて戦ってきた個体なのかも)


だからといって、やることはいつもと変わらない。

戦って狩る。


既にソルジャーは魔力を纏った大剣でバッシュを発動し、通常の斬撃より威力が高い攻撃を放っていた。

だが、オークの頭を空中で斬ったティールの脚は地面に付いていた。

普段通りのサイドステップでバッシュを躱し、懐に侵入。


ソルジャーは直ぐにティールから距離を取ろうとバックステップをするが、クロスレンジから逃れることは出来ない。


「見誤ったな」


「ッ!?」


ロングソードが横に振られる。

距離的にはあと刃一つと半分ほど。


だが、魔力を自在に操れる者からすれば、それぐらいの距離は誤差でしかない。


振る瞬間に風の魔力を伸ばし、一本の綺麗な刃と化してソルジャーの首をオーク二体と同じく切断。


「……よし、死んだな」


完全に死んだのを確認し、ホッと一安心。


「よう、お前ら生きてるか?」


「あ、あぁ。生きてる、ぞ」


「そうか、それは良かった。おっと、お前らじゃ敵わなさそうだから殺させてもらった。文句ないよな」


俺はお前らより強い。

言葉は違えど、ストレートにそう言われた冒険者たちは一気に頭に血が上ったが、直ぐに先程までの状況を思い出して落ち着きを取り戻した。


「そ、そうだな。俺たちじゃ敵わなかった……助かった。お前が来なかったら、俺たちは助からなかっただろうからな」


「かもな……何の依頼を受けてるのか、それとも目的があって探索してるのかは知らないけど、そろそろ街に戻った方が良い、ぞ」


血抜きの為に死体を動かしていると、オークソルジャーの背中に大きな傷跡を発見した。


(これは……何かで抉られたような傷痕。でも刃物や鋭い何かでやられた痕じゃない……棍棒?)


その傷は傷口こそ塞がっているが、まだやられてから何日も経っていないものだった。


「……もしかしたら、本当にいるのか」


獲物の跡が見つかった。

それを確信したティールは無意識の内に笑みを浮かべていた。

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