高い金を取るだけはある

「……ここにするか」


懐には余裕があるので、ある程度質の高い宿屋を選んだ。

中に入り、早速部屋を取ろうとしたが、従業員に金を持っているのかと怪しい目を向けられる。


(確かに見た目ルーキーの冒険者が泊まるような宿じゃないよな)


しかし中身は全くルーキーではなく、金ならこの宿より高いとこに余裕で泊まれるぐらいはある。


「金ならある。とりあえず一週間分泊まりたい」


「ッ!! 失礼しました」


従業員は直ぐに頭を下げ、ティールに宿の説明を行った。

鍵を受け取り、部屋まで案内されて中へと入る。


「……豪華、だな」


宿のランクで言えば中の上程度なのだが、村人出身のティールからすればかなり豪華な内装だった。


「ベッドも柔らか……良いな、これ」


一つ個人用に欲しい。そう思ったが、拠点を持っていないティールが家具を買っても、基本的に使い道がない。


(結界を張れば外でも使えるかもしれないけど……違和感が凄いな)


森の中で張られた結界の中にベッドが置かれている。

どこからどう見てもおかしい状況だろう。


(今使ってるテントは悪くないけど、普通のテントだ。マジックアイテムの中にはテントの中が空間魔法によって拡張されてる物があるらしいけど……是非欲しいな。そんなマジックテントを手に入れれば、ぐっすり寝られそうなこのベッドを買って中に入れれば良い)


ダンジョンの中に存在する宝箱の中から、もしくは最上級の腕前を持つ錬金術師が最高級の素材を使い、マジックテントを生み出すことが出来る。


ただし……恐ろしく値段が高い。

先日、大金を稼いだティールだがその全てを使っても買うことは出来ない。


「とりあえず今日は夕食を食べて寝て………明日はどうしようか」


この先一人で活動することに対し、多少の不安は確かにある。

奴隷を買うということに不満や抵抗はない。


「奴隷を買いに行くか、早速遺跡に潜ってみるか……どうしようか」


どちらにすべきか悩んでいると、大きな腹の音が聞こえた。


「出店で軽く摘まんでたんだけどな……もう食べるか」


宿代の中に食事代が含まれている。

普段着に着替えて食事ルームに移り、多めに食事を頼んで夕食を食べる。


どの料理も美味いと感じるが、不思議と今まで食べた庶民的な料理を否定するような気持ちは生まれない。


(てか、周りを見るとやっぱり商人とか貴族……あとは騎士? みたいな連中もいるな)


冒険者もそれなりにいるが、客層の割合としてはティールが基本的に関わることがない職の者が多い。

それ故に、周囲の客は一人で料理にがっつくティールを訝しい目で見る者もいるが、絡もうとはしない。


店の警備はしっかりとしており、宿代が払えない者は当然追い出される。

いざこざを起こせば警備の者が対応する。


店の警備が信頼されていることもあり、ティールがまっとうな客であることが証明されている。


「ふぅ、美味かった」


豪華な夕食を食べ終え、部屋へに戻るとお湯で濡らしたタオルで体を拭き、生活魔法のクリーンを使用。

体を綺麗さっぱりにし、寝間着に着替えてベッドにダイブ。


ベッドの柔らかさがティールの睡魔を呼び起こし、一瞬で夢の世界へと意識が飛んだ。


「……凄いな、目を閉じたら一瞬で朝」


宿のベッドには睡眠快感の効果が付与されている。

効果はそこまで強くはないが、一日の間動き続けた者が寝ようとすれば直ぐに意識を落としてくれる。


そして起きた時には個人差はあるが、体が軽くなっていると感じる。


「流石宿代が高いだけのことはあるな。この状態なら……やっぱり狩りに行くのが一番だな」


奴隷という自分の秘密を絶対に漏らさない戦力は欲しいが、今日はまず体を動かしたい。

そう思ってしまったティールはパパっと着替え、食事ルームに降りて朝食を頼んでささっと食べてしまい、速足で冒険者ギルドに向かった。


ティールにしては珍しく早起き。

今ギルドに行けばまだ良い依頼が残っているだろう。


だが……その分、冒険者がギルドに多くいる。


「……あの争いに加わる気にはなれないな」


金に困ってはいないので、割の良い依頼争奪戦には参加せず、後方で争奪戦が収まるまで待ち続けた。

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