匂いに釣られて

「……お前らも朝早いんだな」


起きてから既に酸のミニドラゴンによって殺された死体を解体し、朝食を食べている途中で数体のバンデットゴブリンが徐々に迫って来ていた。


(気配を消すのが上手いな……バンデットか)


通常のゴブリンより一回り大きく、気配を消すのが上手い上位種。

だが、ティールの包囲網を潜れるほど隠れるのが上手くはなかった。


即座に落ちている石ころを拾い、それなりの力を込めて投げた。


「「「グギャッ!!??」」」


木々に隠れていて、ティールからは見えない位置に立っていた。

それでも隠れている場所を把握されており、投擲のスキルを使用して投げられた石ころは途中で軌道を変えて頭を貫いた。


「バンデットとはいっても、ゴブリンなら魔力を纏わなくても平気だったみたいだな」


急いで朝食を食べ終わり、魔石だけを回収して後始末をして出発。

本日も素の状態で走り続け、すれ違う人たちを驚かす。


「……なぁ、今走って行ったのは子供だよな」


「そ、そうだな……普通に考えて危ねぇよな」


商人を護衛していた冒険者はすれ違ったティールの顔を確認でき、まさかの子供が一人で野道を走っている姿に少々驚き固まってしまった。


「でも、格好は冒険者ぽかったぞ」


「だからって一人でこの道を歩く……いや、走るか?」


「だよなぁ~~。ここ、普通にモンスターが森から飛び出して襲ってくるし」


そもそもよっぽどの理由がなければ、走りながら次の街に移動したりはしない。

モンスターがいつ襲ってくるかも分からない状況で、不用意にスタミナを減らすのはいくら早く次の街に着きたいとはいえ、得策ではない。


「声を掛けた方が良かった気がしなくもないが……もう見えないもんな」


「だな。もしかしてスタミナを強化する系のギフトを持ってるんじゃねぇのか? それなら朝からあれだけ全力疾走できるのも納得だ」


二人は完全にティールが身体強化、もしくは脚力強化を使用しながら走っていると考えていた。

だが、実際は強化系のスキルを一切使っていない。


二人と同じ様なことを考える者が道中に多くいたが、全ての憶測が外れていた。


「チッ!!!」


昼食と昼休憩を挟み、スタミナを回復させてから元気良く出発してから約二時間後、モンスターから奇襲を受ける。


(ウィンドボールとダークボール……上位種のメイジがいるのか?)


飛んできた攻撃魔法を刃に魔力を纏って弾く。

だが、いきなり奇襲が飛んできたことに苛立ちが漏れた。


(随分と的確。それに攻撃魔法を撃った後に直ぐ他の個体が飛び出してこない……戦い慣れてるか、それとも自頭が良いのか)


どちらの可能性もある。


気配感知を使用して調べたところ、数が十を超えており、漏らさずに殺すのは少し骨が折れる。


(直ぐ終わるだろうし、重ねてやるか)


いつも通り身体強化と脚力強化を重ねて発動。

次に空いている左手に風の魔力を纏い、いつでも魔法が放てるようにセット。


「よし……逃げるなよ~~」


全力で駆け出し、一瞬にしてコボルトメイジの背後を取った。


「ッ!!」


「遅い」


まずは面倒なメイジを一体、そして攻撃魔法を発動しようとしているもう一体のメイジも瞬殺。


「……もう面倒な奴はいないな」


一瞬にして自分たちの司令塔二人が殺されてしまった。

残りのコボルトたちは驚き固まり、敵を殺そうと動き出した瞬間には視界が不自然に動いた。


ロングソードの刃で首を斬り裂かれ、心臓をブスっと貫く。

風の弾丸で脳天を貫き、風の刃で頭部を豆腐に切り込みを入れるようにプスッと一刺し。


瞬く前にコボルトの群れは壊滅した。


「後は……いないな。良かった良かった、討ち漏らしはないみたいだな」


ホッと一安心し、またまた解体作業に取り掛かる。

アシッドミニドラゴンが倒したモンスターを解体し、その後に朝食の匂いに釣られてやって来たバンデットゴブリンを倒して解体。


そして今度はコボルトの死体を十体以上を解体。

一日に何度も血を見るのに萎える者もいるが……ティールは慣れた様子で捌いていく。


一日の間に何度もモンスターに遭遇するなど、村で生活している頃は当たり前だった。

今は街から街へ続く道を移動してることもあって遭遇する数は少なくなっている。


(コボルトでも毛皮と肉、爪や牙は売れる。綺麗に解体しないとな)


解体の腕によってギルドでの買取価格はそれなりに変化する。

モンスターと遭遇することや、死体を解体することに慣れ過ぎているティールは道中が苦だとは全く思わず、突き進んで行った。

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