いざ、次の目的地へ

「ご馳走様、ティール」


「美味しかったわ。今度一緒に食べる時は、私たちが奢るわ」


「楽しみに待ってるよ。じゃぁな」


楽しい友人との食事が終わり、宿に戻る。

だが、その手をリーシアが取った。


「……どうした?」


「いや、その……ティールはさ、本当に私たち一緒にパーティーを組む気は、ない?」


やはり最後に訊いておきたかった。もう一度だけ訊いておきたかった。

ティールにとって利が無い提案だと解っているが、それでも一緒にパーティーを組んで冒険したいと思ってしまった。


その気持ちをエリックも解っているので、勧誘を止めようとはしなかった。

ただただ、ティールがなんと答えるかだけを待つ。


「……誘ってくれたのは嬉しいよ。でも、俺は今のところ誰かとパーティーを組むつもりはない」


「そ、そうだよね……ごめんね、無茶なこと言って」


「いいや、誘ってくれたこと自体は本当に嬉しいと思ってるよ」


そう……それは本音だ。心の底から嬉しいと思ってる。

だが、ティールと二人では冒険者として歩く歩幅が違い過ぎる。


他にも理由はあるが、一緒にパーティーを組んで活動することは出来ない。


「それじゃ……おやすみ」


「うん、おやすみ」


そこで二人とは別れ、宿へと一直線に戻った。


「はぁ~~~……親しい人との別れってのは、それなりに辛いものだな」


冒険者として活動していれば、別れなんて何度も体験する。

逆に、どこかでまた再開出来るかもしれない。


予めそれらが解っていても、いざ一人になると寂しさがこみ上げてきた。


「追加のメンバーか。欲しいと思わない訳じゃないけど……俺の事情を考えれば、そう簡単に最適なメンバーは見つからないよな」


それが解っているので中々探そうという気が起こらない。


(明日には出発か……色々と挨拶したし、そのまま出発しても問題無いよな)


この街で出会った人たちのことを思い出しながら眠りつき……珍しく次の日は早く起きてしまった。


「……珍しいな。こんな早く起きるなんて」


自分でも思ってしまった。

出発するのは朝でも昼でも構わなかったのだが、おそらく昼になると予想していたからだ。


「ん~~~っ!! 二度寝するような気分でもないし、用意して行くか」


寝間着から普段着に着替え、食度へと降りていく。

すると食堂にはまだ多くの客達が朝食を食べていた。


「おっ、ティールじゃなぇか。今日は随分と早起きだな」


「あぁ、なんか良く分からないけど、早く起きてしまった」


適当に朝食を頼み、腹を満たす。

この宿で食べる料理もこれで最後かと思うと、普段から美味しかったのだが……今日の朝食は更に美味しく感じた。


「そういえば、今日出発するんだってな。行先は決まってたりするのか」


「ヤドラスの遺跡に行こうと思ってる」


「ヤドラスの遺跡か……もしかしてアーティファクトが目当てか?」


錬金術師が造ったり、ダンジョンの宝箱に入っている魔道具と似て異なる道具。

それがアーティファクト。


「そう、かな。単純に楽しそうだからってのもあるけど」


「確かに冒険者に取っては遺跡探索、ダンジョン探索はワクワクするよな!!」


相席している冒険者は流れなので、過去に遺跡やダンジョン探索を行ったことがある。

なので、そういった場所に挑むワクワク感と緊張感を知っている。


「……そうだな。ちょっとワクワクしてる」


遺跡の詳しい話はジンとリースから聞いている。

何かが待っている分からない場所に挑む……正直、かなりワクワクしていた。


「ははっ! やっぱりそうだよな。でも、遺跡に潜るときは臨時でパーティーを組むのか?」


おそらくティールには他の冒険者とパーティーを組まず、ソロで活動する理由がある。

それを男の冒険者はなんとなく解っていたが、やはり遺跡を一人で探索するのはお薦め出来ない。


「……さぁ、どうだろな。臨時でも組んだ方が良いんだろうけど……まっ、なんとかるだろ。ブラッディ―タイガーより強いモンスターなんてそう簡単に現れないだろ」


「そ、それは確かにそうかもな……うん、一人でブラッディ―タイガーを倒せたティールなら大丈夫か」


その事実をぶつけられては、特に言い返す言葉はなかった。


(遺跡の中はモンスター以外にも色々と厄介なことがあるんだが……こいつならなんとかしそうだな)


スーパールーキー、なんて言葉では収まらない存在。

それが解っているので、男はこれ以上口を出さなかった。


「よし、行くか」


朝食を食べ終えたティールは振り返らず、直ぐに次の目的地へと向かい始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る