疑ってしまった相手は……

(なんで黒服のお兄さんがこっちに……あっ、単純に俺の格好を見た感じ、金を持ってなさそうに思えたのか)


ティールの服装は普段着。

みすぼらしい格好という訳ではないが、カジノに入る服装に相応しくはない。


正装を着て入らなければいけないというルールはないが、正装を着ていない子供がお金を持っているとは思えない。

そう考えてしまうのは不思議ではない。


(なら、金を持っていると証明すれば良いよな)


その証明の仕方は簡単だ。


「君、ここが何処か解ってるのかい? ここはカジノだ。それそ相応のお金を持っていなきゃ入られない場所なんだ」


見た目は強面だが、ティールの様な子供相手でも丁寧な口調で接する。


(……怖い顔をしてる割には、俺みたいな子供にでも優しく接してくれるんだな)


警備を担当している黒服の兄ちゃんに好感が持てた。

ただ、ティールの今の気分は絶対にカジノで遊びたい……その思いで満たされているので、懐から一つの硬貨を取り出し、二人に見せた。


「俺、これでもちゃんとお金は持ってるんだ」


「ッ!! ……ちょ、ちょっと見せて貰っても良いか?」


「いいよ」


取り出した硬貨は白金貨。

子供が到底持てるような硬貨ではない。


疑てしまうのは仕方ない、その反応が当然だと思い、黒服兄ちゃんに白金貨を見せる。


黒服の兄ちゃんはスキルレベルは低いが、鑑定を有しているので、この白金貨が本物か偽物かを見極めることが出来る。


「……本物、だな。疑って悪かったよ」


「いや、問題無いよ。実際に子供でこの服装だからな」


黒服の兄ちゃんからの疑いを晴らし、カジノの中へと入って行く。


「まさか白金貨とは……貴族の子息はお忍びで来たのか? でも、それなら傍に護衛がいるのが普通だと思うんだけどな」


「……あの子供自身がかなりの強さを持っている、って場合もある」


「おいおい、完全に子供だったぞ。武器も持っていなかったしよ」


黒服の片方はティールの実力に全く気付いていなかった。

もう一人も完全には把握していないが、薄っすらと勘付いていた。


「一瞬、あの子供を視てみようと思ったが……悪寒を感じたんだよ」


二人はカジノの警備をしているだけあって、並みの冒険者ほどの実力はある。

そして黒服の兄ちゃんは対人戦ならCランク冒険者が相手なら、五分五分で戦えるほどの実力者。


鑑定というそこそこ珍しいスキルを持っており、特徴として……相手が自分より強い場合、鑑定を使おうとすれば調べる前に悪寒が体を走り抜ける。


鑑定を使えば、その行為が相手にバレる。

それはイコール、相手が自分よりも実力が上ということに繋がる。


過去の経験から既に確証していた。


隣の黒服もその特徴は知っていた。


「マジ、かよ。あんな子供にお前が悪感を……ちょっと待てよ、今この街でそんな高い実力を持つ子供って、あの人ぐらいしかいないんじゃないか?」


「…………そ、その可能性が一番高い、な」


ティールがブラッディ―タイガーをソロで倒したという話は広まっている。

どんな容姿なのかという事も……だが、その見た目を完全に把握している者はそこまで多くない。


なので、一目でティールがその噂の人物だと見極めるのは難しい。


「俺たちそんなヤバい人を疑ってしまったのか……あ、後でぶっ飛ばされないよな」


「い、いや。それは流石に大丈夫、じゃないか? 疑ったことに対して怒ってなかったしさ」


疑ってしまった相手が街を救った英雄だと知り、二人は自分たち今後がどうなってしまうのか……それが気になって仕方なく、仕事に集中できなくなっていた。


だが、そこで鑑定のスキルを有している黒服の兄ちゃんがカジノ側に伝えた方が良いと判断し、ダッシュでカジノの中へと入って行った。


「……いや、凄いな」


初めてカジノの中に入り、零れた第一声はそれだった。

歓楽街に初めてはいいた時、完全に異世界だと思った。


しかし、カジノの中もその衝撃に負けない程に別次元だった。


光が贅沢に使われており、眩しさすら感じる空間。


「おっと、驚いてばかりいられないな。お金をチップに換金しないと」


辺りをグルっと見回し、それらしき場所へと向かった。

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