長としての思い

ギルドマスターとの話を終え、ティールは部屋から出て行った。


「ふぅーーーー……さて、手紙を書かないとな」


「ティール君のことに関してですか」


「それ以外ないだろ。全てのギルドに送りはしないが……俺がティールに勧めた街のギルドマスターたちには一応連絡しておかないとな……規格外のルーキーがそちらに向かうかもしれないとな」


事前に規格外の冒険者がそちらに向かう。

それを知らせるだけで厄介な問題には発展しない……かもしれない。


冒険者同士の衝突であれば当事者たちだけの問題で終わらせることが出来る。


そしてザルキスはその衝突でティールが負けるとは全く思っていない。


(ブラッディ―タイガーをソロで倒す様な冒険者が並の冒険者と戦って負けるか? 普通はあり得ない。使用した武器の性能を除いたとしても、ベテランを超える戦力を有している)


相手の実力を冷静に見極めることが出来ないポンコツが絡んだところで、潰されるのがオチ。


(実力者はティール君が普通ではないことを直ぐに察せる筈だ……中身が気になった奴は試そうとするかもしれないが、バカな絡み方はしないだろう……いや、どちらにしても少々不安だな)


ギルドマスターのザルキスとしては、もう少しこの街に滞在して欲しい……というか、基本的に平和な街で経験を積んで欲しいと思っていた。


「今回はランクアップを見送りましたが……直ぐにその話が浮上するかもしれませんね」


「……冒険者として、あまりトラブルに巻き込まれる不本意だろが……仮に巻き込まれたとしても、ティール君なら乗り越えそうだな」


「そうなれば再び……」


「そうだ、ランクアップを提案されるだろう。経験は足りずとも、実力は既に上位に食い込んでいる……基本的に本人の意志を尊重するべきなのだが……はぁーーー、難しい案件だな」


本人の意志を尊重するべき。

それはザルキスも理解している。


だが……今までランクアップを渋った者と出会ったことが殆ど無い。


過去に数度だけあるが、まだまだ自分の実力に自信が無い、そのランクに相応しい実力を持っていないから。

そういった理由があったので、今回の様にランクアップを見送った。


だが、見送った者達に上を目指すという意欲がなかった訳ではない。

全員が次のランクアップの機会には上に登っていた。


しかしティールはそもそもな話、ランクアップという特典に興味が無いのだ。


(ランクアップをすれば、一般的な冒険者が得られない特典を貰える……そういった例外的な何かがないと承諾はしなさそうだな。特殊な武器……に関しては既に持っていたな)


世の中にはティールが持っている疾風瞬閃や豹雷よりも優れた武器が存在する。

だが、その二つも全体的に見れば上位に入る武器なので、並みの武器ではティールの首を縦に振らせることが出来ない。


「しかし、本当に珍しいルーキーでしたね」


「珍しいという次元じゃないだろ……元冒険者としてはやっぱりソロは危険だと思うんだが、まだまだ若いのにあんなに実力が突出してると組む相手がいない……色んな意味で珍しいかもな」


その実力も、勇気も、年齢も……どれも珍しい。

本人は冒険者としての人生を旅を楽しみたい……だが、ザルキスはただ楽しむだけでは終わらないと断言出来る。


(まず若い、幼いという時点で歳だけ上の馬鹿共に絡まれる。それだけならまだティール君が叩きのめせば済む話だが、友人を守り……街を守ろとした。正義感が多少なりともある。それが面倒な方向に絡まなければ良いが……それは運次第としか言えないか)


「難しい顔をしてますね、ギルドマスター」


「そりゃ難しい顔になるだろ」


「自分の街から離れてしまうのにですか?」


「一ギルドの長になれば、ルーキーの将来は心配するもんなんだよ……できることなら、死ぬことなく冒険者としての道を楽しんで欲しい。だが、世の中上手くいかないことばかりだ」


ザルキスが冒険者だった頃、勿論楽しい出来事もあった。

しかしそれと同じくらい……もしくはそれ以上に悲しく、辛い出来事もあった……仲間の死や知人の死を知った時、自分達が賭けつけるのが遅かったばかりに街の住民たちが死んでしまった。


(冒険者として生きていけば、いずれどこかでぶつかる運命だが……それでも夢を持つルーキー達には経験して欲しくないと、上手く乗り越えて欲しいと思ってしまう)


ティールにもなるべく楽しい冒険者人生を送ってもらいたい、そう思いながら各ギルドへの手紙を書き始めた。

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