止まれ!!!

「なんだとっ!!?? それは本当なのか!!!!」


「は、はい……体が全体的に黒くて……赤い線が体に刻まれていて、あれは多分……ブラッディ―タイガーです」


「……クソがッ!!!! お前ら、今の話聞いてたか!!! 冒険者に成りたてのルーキーがこの街の為に体張ってんだ!!! 俺は準備が出来次第すぐに向かう。覚悟がある奴はついて来い!!!!」


偶々ギルドにいたガレッジはリーシアとバーバスからの報告を受け、昼間っから酒を呑んでいなかった自分に賞賛を送りながらも慌てて討伐の準備を行う。


正直なところ、自分一人では敵わない。

Cランクの冒険者やDランクの冒険者が多く必要だ。


圧倒的な個の力には数で立ち向かう。

だが、その圧倒的な個がBランクモンスターだと知れば、どれほどの数が挑もうと決心するのか。


そもそも数が集まらないかもしれない。


それでもガレッジはブラッディ―タイガーと戦っているティールの元へ行くことに躊躇いはなかった。

まだティールと知り合ってそれほど月日が長くはない。


しかし仲間を……街を見捨てるような性格ではないことは解かっている。

ルーキーらしからぬ実力を持っているとはいえ、まだ子供なことに変わりはない。


子供のティールが文字通り命を張って仲間を、街を守ろうとしているのに大人の自分が見捨てる訳にはいかない。

心臓をバクバクと鳴らしながらも、心は後輩を助けに行く為に燃えていた。


そして二人からの知らせを受けた五分後、街の外には三十名ほどの冒険者達が集まっていた。

その中にはティールに次いで有望株のエリックもいた。


それだけではなく、緊急事態を知らせに来てくれたリーシアやバーバスもいる。

この際、実力の差がどうたらこうたらと説得している暇はない。


「お前ら……万が一の覚悟は出来てるってことだな」


「そりゃな。だが、死ぬつもりなんて毛頭ないぜ。生きてルーキーを助け、災害をぶっ潰すんだよ」


BランクやAランクモンスターは一部の冒険者から災害と呼ばれている。

それ程までに個としての戦力が桁違いに高く、大半の冒険者のその姿を見て怯んでしまう。


しかし……この場に集まった全ての冒険者にはその災害に立ち向かう覚悟ができていた。


「よし、行くぞ野郎ども!!!」


ガレッジの掛け声と共に一斉に二人から教えられたルートを走っていく。

当然道中では他のモンスターとすれ違うこともあるが、あまりの数の多さで移動している冒険者達にビビッて殆どが逃げていく。


果敢にもガレッジたちに襲い掛かったのは数体のみ。

殆ど武器や魔力を消費せずに済んだ。


そして遂にティールとブラッディ―タイガーが戦っている場所へとガレッジたちは辿り着いた。


だが……そこには首と胴体が別れているブラッディ―タイガーと立ったまま気絶しているティールがいた。



ガレッジたちが到着する前、ブラッディ―タイガーと対峙していたティールは戦う覚悟が決まっていたものの、恐怖が消えたわけではなく、不覚にも足が震えていた。


(止まれ、止まれよ! ふざけんな!!!! これからこの化け物と戦うんだろ、止まれ!!!)


震える足を何度も叩き、無理矢理恐怖を掻き消してもう一度意識を目の前の強者に向ける。


左手で握るのは疾風瞬閃。

そして右手に握るのは豹雷。


どちらも上等な武器であり、素早さを少々させる効果が付与されている。

それに加えて脚力強化と身体強化を併用し、限界まで脚力を高める。


「ガルルルアアアアッ!!!!」


野性の死合に開始の合図はない。

そう言わんばかりにブラッディ―タイガーがまずは初手を繰り出し、その鋭い爪でティールを斬り裂こうとした。


「フッ!!」


しかし限界まで脚力を強化したティールは爪撃を躱すことに成功。

だが……その爪撃が空ぶった地点の様子に唾をゆっくりと飲み込んだ。


「は、ははは……あんなのまともに食らったら出血多量で動けなくなりそうだな」


既にブラッディ―タイガーも身体強化のスキルを使用している。

速さに大した差はない。


(前に出なければ……試合は終わらない!!!!)


今ここで自分が倒すんだと気合を入れなおし、今度はティールから攻撃を仕掛けた。

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