全て話す

ゴブリンや上位種の魔石を回収し終えた後、街に戻る途中で日が暮れたので野営をすることになり、ティールは夕食を食べ終えて仮眠を終えた後に見張りに変わる。


「……はぁ~~~、面倒なことになったもんだな」


「やっぱりそうだったんだ」


「ガレッジさん」


ティールが見張りの冒険者と交代すると、同じく他の冒険者と交代したガレッジがティールの表情を察して昼に面倒な事が起こったことを完全に理解した。


「どんな感じの面倒だったんだ?」


既にバーバスは見張りを終えて寝ているので聞かれることはない。

ティールは今日起こった事を全てそのまま話した。


「ちょっと珍しいというか……ファイターとアサシンの能力を兼ね備えた感じの上位種がいたんですよ。バーバスは一回そいつに奇襲を食らってから俺達にこいつは自分が倒す、だから手を出すねって言われました」


「それは……はっはっは、男らしくはあるが乱戦時にはあまり良くない選択だな」


周囲に他のモンスターがいない状態であればガレッジも完全に悪いとは言わないが、乱戦時にそんなアホな行動を取ってしまったら自分だけではなく、仲間にまで迷惑を掛ける結果になるかもしれない。


「俺もそう思いました。でも、戦況は完全にこちら側が有利だったんでバーバスの願いを了承しました。ただ……その上位種がある程度戦い慣れていたのと、バーバスの戦闘スタイルと上位種のスタイルの相性が悪かった。ということもあって、拳を腹に食らいました」


今は回復魔法をかけてもらったお陰で傷はしっかりと癒えているが、正拳を食らった瞬間に罅は入っていたので戦いを続行できたとしても、不利になるのは変わらない。


「その瞬間にもう無理だと思い、エリックと一緒に上位種を討伐しました」


「エリックと一緒にか。そりゃその上位種が少々可哀そうに思えるな」


冗談で言っているのではなく、真剣にガレッジは二人にやられた上位種が少し可哀そうに思えた。


ティールの実力はルーキーの域を完全に抜けている。

そしてエリックもティールがいなければ期待の新人、スーパールーキーと呼ばれていたのは確実であろう実力を持っている。


そんな二人が少々異質とはいえ、ジェネラルでもない上位種を一緒に討伐するのは明らかにオーバーキルだった。


「……もしかしたら過剰戦力だったかもしれませんね。それでバーバスに関してですけど、絶対に今回の件について納得してませんよね」


「だろうな。俺の意見には渋々従っていたが、絶対に納得はしていない。負けん気があるのは悪くない……ただ、あそこまで行き過ぎてると今後が怖いな」


「自分達のパーティーだけで行動する時に暴走しそう、もしくは無理して難易度が合わない依頼を受けるかもしれないということですか?」


「あぁ。ティールに負けて、今回の討伐でも上位種に奇襲を一発と最後に良い一撃を食らった。そこまで敗戦が重なれば普通は大人しくなるもんなんだがな」


生意気なルーキーも一度痛い経験を体験すれば大半の者は多少なりとも大人しくなる。

だが、バーバスにはまったくそういった反応がみられない。


バーバスは自身のパーティーのリーダーなので、メンバー達は基本的にバーバスの言うことに反対はしない。

今回の件やティールにあっさりと負けた一件でバーバスに対する強い信頼感は薄れてきているが、それでもパーティーメンバーの中にバーバスに敵う者はいないので、結局指示には従ってしまうだろう。


仮にメンバー達がバーバスの無茶な指示に賛同出来ず、バーバスだけがソロでモンスターを倒そうとした場合、あっさりと死ぬ可能性が高い。


ソロで行動する場合に重要な能力は脚の速さと判断力の速さ。

勿論自身が放てる攻撃力も大事だが、ルーキーの域を達していない者たちは当然ながら敵わないモンスターの方が多い。


そういった場合、即座に状況を理解する判断力と逃げ切る為の脚の速さが必要になってくる。


そもそもルーキーの域を超えた強さを持っているティールは特に問題無い。

そしてエリックほど脚と判断力が優れていればなんとかソロでも活動は出来る。


バーバスは攻撃力が合っても脚は平均か中の上程度。

判断力に関しては自分の実力を過大評価しているところが有り、そこが死因に直結する。


(あいつが死にそうな原因はポロポロ思い浮かぶけど、とりあえず俺が説得するのは無理だろうな)


現在一緒に行動しているメンバーの中で一番嫌われている自覚があるので、もう自分から動くのは止めようと決めた。

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