もっと経験が必要

「ふっ!」


一つの斬撃を放ち、その場から直ぐに移動する。

地面に棍棒を叩きつける結果となったオークは直ぐに棍棒を持ち上げるが……そこに違和感を感じた。


軽い。いつも感じている棍棒の重さと違う。

恐る恐る棍棒に目を向けると、綺麗な切断面が見えた。


「おいおい、流石に目を離し過ぎじゃないか」


棍棒が急激に軽くなったのを確認した隙を突き、一瞬で距離を縮めるティール。

その速度にオークは反応出来なかった。


「……うん、本当に凄いな」


自分は斬られたかと思ったが、後ろから人間の声が聞こえてきた。

まだ自分は生きているのだと思い、首を捻って攻撃に移ろうとするのだが……なぜか視界が回転することは無かった。


そしてゆっくりと……ゆっくりとオークの視界は閉じていった。


「まさに斬る為の武器、だな」


血を払って鞘に納めたティールは改めてそう感じた。


(長剣も斬る為の武器だってのは解っているけど……本当に切れ味が違う。その分、真っすぐに……一直線に斬らないと刃が欠けそうで怖いけどな)


レイピアやエストックなどの細剣と分類される剣と同じく、刀の扱いには多少の器用さは必要になってくる。


「さて、いつも通り奪ってささっと解体してしまうか」


奪取≪スナッチ≫でオークのスキルを奪い、慣れた手付きで解体していく。

一応試運転となったオークとの戦い……豹雷は確かに良質な武器だと解った。


だが、まだまだ自分の命を預けられる武器という感覚ではない。

なので強敵を相手に使用出来るか……それには不安が残る。


(まっ、疾風瞬閃も大して使ってないけどま。でも、普段から長剣は使ってるからそういう意味でも問題無く使えそうなんだよな)


投擲や酸と同じぐらい長剣は使い慣れている。

なので、いざという場面で疾風瞬閃を使う事になっても扱いきれると思っている。


「……とりあえず、自信を持つにはある程度試し斬りを行わないとな。実践した数こそ自信に繋がる」


そういう訳で、ティールは日が暮れるまでモンスターを狩り続けた。

モンスターの解体を行っている最中に他のモンスターに襲われることは何度かあったが、気配感知に引っ掛かったモンスターはティールが即座に斬撃を放って討伐。


幸いにも低ランクのモンスターしか襲ってくることは無く、ティールとしては稼ぎが増えて万々歳な結果。

だが、そろそろ日が完全に暮れる時間に街へ帰ろうと思い、歩いている最中に思い出してしまった。


(……そういえば、俺って結界のスキルを持っていたんだよ。それを使っておけば気配感知を使って周囲を気にせずマイペースに解体出来たんじゃないか?)


酸で動物を生み出すのと結界を張る魔力の消費量を考えれば、結界の強度にもよるのだが……結界の方が消費魔力が少なく済む場合がある。


(森の中に生息しているモンスターの強さを考えればそこまで強く無い結界で十分だよな)


一撃で壊されたとしても、その間に相手の気配さえ捉えてしまえばティールの勝利は決まったも当然。


(出来る事が多い、自分がどの手札を持っているのか時々忘れるな)


ティールが主に使う攻撃方法は酸と投擲に長剣。そして偶に風魔法など。

それだけ使えば今のところ倒せてしまう。ただ、それ以上の実力を持つモンスターと出会えば、その手札だけでは倒せない可能性もある。


「……次は他のスキルを使って倒すか」


村で生活していたころ、森の中に入ってモンスターを狩っている時は長剣以外の武器も使っていたが、最近は短剣も槍も使っていない。


とりあえず翌日は武器屋に向かい、一般的な価値の刀が売っていないかを確認して、売っていれば購入。

そして次の日には最近使っていなかったスキルを使用してモンスターを狩ることに決定。


そうと決まれば刀を買うのに当然だがお金が必要になる。

なので本日戦って手に入れた魔石やモンスターの素材をギルドで売った。


勿論全てを売った訳では無いが、それでも数が数だったので受付嬢の口からうっかり大きな声が漏れてしまうところだった。

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