前と同じ

ルーキーには少々値段が高い屋敷にやって来たティール。

ただ、ルーキーはルーキーでも金を持っているルーキーなので、特に懐の心配はいらない。


「さぁ、好きな料理を頼んでくれ。俺の奢りだからな」


「はい、ありがとうございます」


ゾルから自分の奢りだと言われたティールは遠慮なく料理を店員に注文する。

そして二人共注文が終わり、料理がやって来る前にティールに話しかけた。


「さて……お前が冒険者になってからまだそんなに日数は経っていないと思うが、上手くやってるか?」


「そうですねぇ……比較的上手くやれていると思います」


自分の感想を素直に話す。

討伐依頼を受け、討伐対象以外のモンスターを倒すこともあるが、特に問題では無かった。


しかしそれはティール個人の感想であり、元冒険者で現ギルド職員であるゾルからすれば問題大アリだった。


(グレーグリズリーに遭遇しておいて上手くやれてる、か……やっぱり貴族の子息なのか? それともそこそこ実力がある元冒険者の弟子だったのか……可能性が高いのは後者か?)


自身の性を隠して冒険者登録をする例はそこまで珍しく無い。

ただ、過去に貴族と接したことがあるゾルはティールから貴族特有の雰囲気を感じなかった。


「そうか、それはなによりだな。というか、まだパーティーを組んでいないのか? ソロでやるにしても、直ぐに限界が来るぞ。討伐依頼だって一日で終わらないものが多いからな」


「まぁ……それは分かってますよ。でも、今のところ他の冒険者とパーティーを組もうとは思わないですね」


知性に関しては特にバレても構わないギフトだが、奪取≪スナッチ≫だけに関しては他人にバレたくない。


(リースさんにも言われたけど、奪取≪スナッチ≫の存在は信用出来る人間以外に教えてはならないし、バレても駄目。それは俺もそう思ってる)


自分が授かったギフトがどれだけ珍しいものなのか自覚している。

知性はティール以外にも持っている者もいるが、奪取≪スナッチ≫に関してはこの世界でティール意外に持っている者はいない。


「そうか……まっ、職員の俺としては早く組んで欲しいと思うが、強制できることじゃないからな。そんじゃ……気になる子はできたか? まだ冒険者になってそんな経ってなくても、そう思う子の一人や二人はいるだろ」


一人だけではなく、二人以上いてしまうのは良くないのではと思うティールだが、確かに気になっている子はいる。


「そう、ですね……一人だけ気になっている人はいます」


「おっ、マジでか。いったい誰なんだ? 同じルーキー仲間か?」


「えっと……どうなんですかね? その辺りはいまいち分からないです。冒険者としては結構優秀な部類だとは思いますけど」


冒険者としては優秀な部類。それだけでランクがある程度は高い、もしくはルーキーにしてはランクが高いという事が解る。


(謎が多いが戦闘力はずば抜けているであろうティールが優秀と思う冒険者……まだベテラン陣と関わる機会は無いだろうから……もしかしてあいつか?)


自分が覚えている新人冒険者達を絞っていった結果、一人の少女がゾルの頭の中に浮かんだ。


「もしかしてリーシアか?」


「そうです、なんで分かったんですか?」


「まぁ……あいつは新人冒険者の間では結構人気だからな」


ゾルの言葉通り、リーシアは男子に人気がある。

それに特に容姿について驕ることも無いので女子からも好かれている。


そんなリーシアに好意を寄せる男も少なくない。


「なるほどねぇ~……それは納得だ。でも、あんまり本気になり過ぎない方が良いと思うぞ」


「なんでですか?」


「何でって、リーシアにはエリックがいるだろ。二人が付き合ってるって話は聞かないけどな」


「友達以上、恋人未満って感じですか?」


「そういう感じだ。まっ……ぶっちゃけなところ、二人共思いを伝えていないだけで思いは一緒みたいだしな」


「そう、なんですか」


別にマジになっていた訳では無い。そもそも、そうかもしれないと解っていた。

ただ、それでも少々ショックを受けていた。


(はぁーーー……前と一緒だな)


今自分の中にある気持ちが本物かどうか分からない。でも、気にはなっていた。

けれども相手と何か繋がりを持つ前に、もう勝負すら出来ないと分かってしまった。

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