まだちょっと早い

結局グレーグリズリーの魔石だけをティールは受け取り、三人でギルドへと戻る。

そしてティールは受付嬢に依頼の討伐証明部位であるゴブリンの耳を渡し、依頼報酬を受け取る。


(あとはこいつらだなゴブリンの魔石を六つと、うっかり倒してしまったこいつだな)


ゴブリンの魔石六つとグレーグリズリーの魔石を一つを換金する為にそれらも渡す。

すると受付嬢は驚き、出そうになった自分の声を無理矢理手で押さえて我慢する。


(これって、どう考えてもDランクモンスターの魔石よね。この子ってまだ冒険者になってまだ一週間も経っていないルーキーよね???)


頭の中にはてなマークが浮かぶが、とりあえず鑑定スキルを使ってどんなモンスターの魔石なのかを調べる。

すると七個のうち、六つとは違って少々大きい魔石は受付嬢の予想通りDランクモンスターの魔石だった。


(うそっ!? グレーグリズリーの魔石……えっ、もしかして貴族の子息なの?)


子供の頃から戦闘訓練を受けている才能ある子供ならDランクのグレーグリズリーを倒せる可能性はある。


(でも、苗字は無いから私と同じ平民の子よね・・・・・・もしかして隠し子なのかしら?)


そんな見当違いの考えが浮かぶが、受付嬢がその様な考えに至ってしまうのも仕方がない。

ティール程の実力がある子供が貴族の子息なら冒険者などの道に進ませず、それ相応の道を親が用意する。


しかし隠し子ともなれば事態は変わる。

実際にその様な事例は過去に何度か存在する。


「こちらが魔石の換金額になります」


「ありがとうございます」


魔石七つ合わせて金貨一枚と銀貨五十枚ほどになり、ルーキーの稼ぎとしては異例中の異例。


(結構稼げたな。流石Dランクの魔石だ。何に使おうか・・・・・・武器の変えはまだいらないしな)


武器は長剣をメインに使うティールだが、ここ最近の戦いでは殆ど使っていない。

投擲による金が掛からない武器にティールが鍛えに鍛え続けてきた五体。

その五体から繰り出される体術には並ではない威力を秘めている。


そして通常武器として身に着けている鉄の長剣に加え、ティールにはジンから貰った疾風瞬閃というランク五の魔剣がある。

ティールのランクを考えれば文字通り切り札と言える武器。


しかしそれをティールは基本的に使うつもりは無い。

少なくとも、人前で使うつもりは無かった。


「お待たせ、やっぱりDランクなだけあって結構高値で買い取って貰えたよ」


「命を賭けた甲斐があるってものね。魔石の方はどうだった?」


「こっちも良い値段で買い取ってくれたよ。当分の宿代や飯代の心配は無いな」


グレーグリズリーの肉や爪に毛皮をギルドに買い取って貰ったエリックとリーシアの二人と合流。

魔石という基本的に素材の中で一番高い部分はティールに譲ったが、他の素材は全て二人の物。

それらの全ての素材を売れば魔石一つ値段よりは高額となり、二人としても命を賭けた分の金を手に入れた。


「よし、それじゃ夕食を食べに行こう」


二人の後に付いて行き、がっつり亭という食堂に向かう。

店に着くまでの間、ティールは表面上二人と話しながらも、内心では今日の戦いについて考えていた。


(グリーンウルフとグレーグリズリーはこっちに来る前からちょいちょい倒していた。だから倒せてもおかしく無かった。ただ、他のDランクモンスター相手ならどうだ?)


個人の努力と神から授かった奪取≪スナッチ≫と知性というギフトを使って一般的な十二歳としては比較にならない程の強さを手に入れたティール。

ただ、ジンとリースの二人から何度もモンスター相手に本気で気を緩めてはならないと伝えられたティールは完全に油断はしない。


(Cランクモンスターも倒したことがあるが、倒した事が無いモンスターに関しては更に注意して戦わないと……いや、流石に気を張り過ぎか?)


事実的な話、Cランクでティールに敵うモンスターは殆どいない。

勝てる可能性がある個体なら、翼を持つモンスターは有利に戦えるかもしれない。


しかし防御力が高いだけのモンスターではティールの酸を防ぐ術が無い。


「さっ、何でも好きな料理を頼んでくれ。お酒は……まだ早いか?」


「そうだな。流石にちょっとな」


酒は何歳からという法律は無いが、基本的に十五歳からは大人と同じ使いになるので十五歳から酒を呑み始める者が多い。


そしてティールはまだ十二歳。

酒を呑むには少々早いと本人も自覚している。


そこまで高くない料理を頼み、料理がやって来るまでのんびり待つ。


「ティール一人で冒険者になったのかい?」


「あぁ、村で同い年の奴らはちょっと有名な人の伝手で何人か学園に行ったけど、俺には今更と思ったからな」


「……もしかして子供の頃から結構やんちゃだったの?」


「やんちゃ……まぁ、確かにやんちゃだったかもしれないな」


悪さをしていたつもりは無い。

しかしティールの行動自体は十分親に心配させていた。


そういう意味ではやんちゃだったかもしれない。

ただ、自分はモンスターと戦えると自信を持っていたので、命懸けの戦いに恐怖を感じる事はあっても、最後は必ず仕留めていた。


「誰かとパーティーを組もうとか考えていないの?」


「……いずれソロでは限界が来ると解っているが、当分の間は一人で続けようと思っている」


ティールも一緒に戦う仲間がいれば、それはそれで楽しいだろうとは思っている。

しかしティールにはあまり人に知られたくない力がある。

それを考えると、どうしても安易に他の冒険者とパーティーを組めない。

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