信用出来る

「ここがリースさんの家、か」


袋二つに大量の魔石を詰め込んだティールは村一番の魔法使いと言われているリースの店へとやって来ていた。


「他の誰かに見られると面倒だ。ビビらずさっさと中に入ってしまおう」


ドアをノックし、心臓を少々バクバクさせながら店の中へと入る。

すると中には店主であるリースがカウンターの奥に座っていた。


その姿を見たティールは驚き、固まってしまう。


「あら、小さなお客さんね。いらっしゃい、何を買っていくんだい?」


「……あっ、はい。えっと、そうではなくて」


リースの姿はエルフであり、村には人族しかいないのでティールとしては驚くなというのは無理な話だ。

しかしなんとか気を持ち直し、リースに要件を伝える。


「あの、この魔石を買い取ってもらえませんか」


「ん? もしかしてその袋に入ってるの? ちょっと見せて貰ってもいいかい?」


「はい、大丈夫です」


かなりパンパンに詰まった袋二つを受け取り、リースはカウンターの上に適当な布を敷いて中に入っている魔石を置いていく。


(これは……どれも質の良い物では無いが、それでも紛れもない魔石だ。しかし何故いったいこんな子供がこれほどの量の魔石を……もしかして、そういう事なのか?)


全ての魔石を視終わり、全てが本物であると確認できたリースはティールに目を向ける。


「もしかしてだけど……この魔石は全て君がモンスターを狩って手に入れたのかしら?」


「は、はい。信じて貰えないかもしれないですけど、僕がモンスターを倒して剥ぎ取った魔石です」


「そう……ふふ、世の中何が起こるか分からないものね」


そう言うと、リースは店の外に出るとドアノブにぶら下げていた板を裏っ返し、店を閉店する。


「そうね、いくつか質問してもいいかしら?」


「分かりました」


「ありがとう。そうねぇ……まず、あなたがいつからモンスターを倒して魔石を集め始めたの?」


「魔石を集め始めたのは一年と半年前ぐらいからです。モンスターを倒し始めたのは三年ほど前からです」


特に偽ることは無く、正直にティールは答えた。

そして次の質問に移る。


「今君の歳は?」


「八歳です」


「八歳……それなら、モンスターの狩を始めたのはギフトを受け取ってからかしら?」


「はい。五歳の誕生日にギフトを貰ってからモンスターを倒し始めました」


「そう、それは……なんとも常識外れの事をするわね」


いったいどんなギフトを貰ったのかリースは猛烈に気になるが、まずギフトを貰って直ぐにモンスターの討伐を始めた事に驚きを隠せないでいた。


(村の外にはおそらくどこか穴を見つけて行ってるのでしょう。ただモンスターを倒す手段としてギフトを得たとしても、実戦で使えるようになるのはいくらなんでも早過ぎる)


確かにギフトで得たスキルは習得速度が他の者が後天的に得た同じスキルと比べて速い。

それでもよっぽどの才とセンスを持つ者以外、それはあり得ない。


「最初に戦ったモンスターと、倒すのに使った武器は?」


「スライムです。攻撃方法は石による投擲です」


「・・・・・・あぁ、なるほど。君があのティール君ね」


「俺を知ってたんですか?」


「えぇ、同世代の子供達と遊ばず、一人で石を的に向かって投げ続けている少し変な少年がいるって聞いたことがあるの」


「それは……ま、まぁ間違ってはいないですね」


少し変な少年と言われてショックだったティールだが、それでも大人から見て自分がおかしいな行動を取っている事は解っている。


なのでそこまで動揺はしない。

自分には必要な努力だったと思っているので、後悔もしていない。


「さて、最後にあなたが得たギフトを教えて貰っても良いかしら? もちろん誰にも口外しないと誓う」


「・・・・・・分かりました」


自分のギフトは異端なものだと解っているが、目の前の人物なら教えても大丈夫だと直感的に思ったティールは自身のギフトを伝える。


「俺が得たギフトは、知性と奪取≪スナッチ≫です」


「知性と奪取≪スナッチ≫……一つ納得がいった。君は七歳児にしてはあまりにも大人びている。その理由が知性というギフトによるもの。そしてもう一つの奪取≪スナッチ≫なんだけど……それを使う事で、何を奪えるの? おっと、最後の質問って言った後に質問するのは良くないわね」


「……別に良いですよ。奪えるものは、相手の魔力とスキルです。魔力は死体の状態なら全て奪えますけど、生きてる状態だと、自分の視界に映っている相手では無いと効果がありません。それと、奪える魔力も大して多くありません。利はあるけど、そこまでではないといった感じです」


ギフトの名前まで教えたのに、その能力を教えないのは不信感を持たれるかもしれないと思い、今解っている能力を全て話す。


「後、自分で倒したモンスターなら殺した後にスキルを奪えます」


「なるほどねぇ~~……一人でこれだけのモンスターを倒せるのも納得」


大量の魔石を指で弄りながらリースはティールが得た二つのギフトについて考える。


(知性はティール君に子供らしからぬ思考を与えた。それ自体はそこまで珍しく……いえ、私も聞いたこと無いスキルだから珍しい事に変わりは無いわね。ただ、奪取≪スナッチ≫なんてスキル、能力は全く聞いたことが無い。というか、スキルなんだから効果が強化される可能性があるわよね……今でこんなに多くのモンスターを倒せる実力があるのに、大人になれば……案外世界最強も夢では無いのかしら?)


危険度が高いギフトだと解っているが、リースは直感的にティールが奪取≪スナッチ≫を悪用するとは思えない。


「よし、とりあえずこの魔石は買い取らせてもらうね。代金は……魔法の知識やその他もろもろでどうかしら」


「それでお願いします!!! 風魔法と木魔法も覚えてるんですけど、あんまり上手く使えなくて」


「オーケー、オーケー。任せてちょうだい!!!」


こうしてティールにはリースは初対面ながらに師弟関係となった。

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