慣れなければいけない
あまり体力を消費しない様に無駄に動き回らず、耳を澄ませながら動く。
そしてようやく見つけた次なる標的は……ゴブリンだった。
「あれが、ゴブリン……うん、汚いな」
背丈はティールと同じ程か少々低い。
だが、その見た目はザ・モンスターだ。
ゴブリンが話し合う声が聞こえるが、何を言ってるのかティールにはさっぱり解らない。
(今日の晩飯の話でもしてるのか? どこかで拾った剣や棍棒を持ってるみたいだし)
三体いるうちの二体のゴブリンは剣と棍棒を持っている。
ただ、全く手入れがされていないので剣の刃は錆びており、棍棒も所々欠けている。
(それでも、俺にとっては十分脅威だな)
念の為身体強化のスキルを使い、手に持つ二つの石を全力投球。
身体強化にプラスして投擲のスキルによる腕力強化が重なり、自分達に向かって何かが飛んで来ているとゴブリンが察知した時には、石が脳を貫いていた。
「ギギャッ!!??」
仲間が急に倒れた事に動揺する残りのゴブリン。
しかし脳を石で貫かれた二体のゴブリンが起き上がることは無く、貫かれた頭部から血がダラダラと垂れ流れるだけ。
だがどこから攻撃が来たのか野生的な勘で察知したゴブリンは何も余計な事は考えず、ただただティールの方に向かって走り出す。
(いきなり投擲より、まずは足止めだな)
木に隠れていたティールに向かって走ってくるゴブリンは明確な殺気を放っている。
大小関係無しに、初めて自身に向かって放たれる殺気に恐怖心が無い訳じゃない。
ただ、知性というギフトのお陰で現状に対して冷静に対処出来る。
「酸弾」
まずはゴブリンが向かってくる線上に酸の球体を落とす。
ゴブリンが警戒して止まるか否かギリギリの速度で放ち、足止めを行う。
元々当てることが目的では無く、酸弾をゴブリンに踏んでもらう事で動きを止める。
幾ら殺気立っていようと、酸による痛みなど関係無しに動けるほどゴブリンの神経はイカれていない。
そして見事にゴブリンはティールの酸弾を踏んでしまい、足裏が徐々に溶けていき、脚に激痛が走る。
「グギャァアアッ!!!???」
「声が大きい」
地面に転げまわるゴブリン目掛けて全力投球を行い、これも見事に命中。
脳を貫き、見事殺すことに成功。
「・・・・・・ふぅーーー、うッ!!??」
スライムの時には何も感じなかったが、ゴブリンは体内に血が流れているモンスターであり、体を傷付ければ当然血が流れる。
その匂いを嗅いでしまったティールは気分が悪くなり、その場で吐いてしまう。
「はぁーー、はぁーー、はぁーー……あぁ、気持ち悪いな。でも、慣れなきゃいけない匂いだ」
冒険者になる以上、モンスターの血の匂いを嗅ぐなんて日常茶飯事。
これぐらいのことで躓いていたら話にならない。
そして更に一歩前に進もうとしたティールはゴブリンが持っていた剣を使って無理矢理その体を斬り裂く。
すると先程よりも濃い血の匂いが溢れ出し、内臓やらが溢れ出す。
「ぐっ……うっ!!??」
当然耐えられず、もう一回リバース。
あまり吐き過ぎると酸で歯が熔けてしまうのだが、そんな事をティールが知っている訳が無い。
それでもこれからの事を考えれば慣れておかなければ考え、自身が殺した死体を眺める。
「はぁーー……ぺッ! やっぱりあんまり気持ちの良い物じゃ無いな。さて、本当は魔石を取ったり剥ぎ取りも練習したいが……絶対に血で服が濡れるから無理だな」
幸いにもまだ血で服は汚れていない。
もし汚れてしまえば両親や兄に何があったのかと心配される。
そうなったとき、ティールにはどう誤魔化せば良いのか思い浮かばない。
(実際に俺自身が怪我をした訳では無いのだから、自身が怪我を負ったから服に血が付いたという言い訳が通用しないだろう。そうなれば……今日の出来事を全てでは無いが、大体を話さなければいけなくなる。そうしたら・・・・・・絶対に今後一人で外に出られなくなるだろう)
それだけは避けたいティールは魔石の回収訓練は諦め、ゴブリン達からスキルと魔力を奪う。
「……剣術と棍術か。確かに剣と棍棒を持ってたし、それらのスキルを覚えていても不思議では無いな」
スキルレベルは一と低いが、それでもティールが持っていなかったスキル。
手に入れることが出来て嬉しい事に変わりは無い。
「今日はこのぐらいにしておくか」
まだ日は沈み始めていないが、体力的にも精神的にも疲れたティールは木に付けた印を見つけながら村へと帰っていった。
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