第3話 間話、サリチル視点
私の名前はサリチル。
レーシュ様の筆頭側仕えとして長年仕えています。
血の繋がりもある遠方の家系だが、レーシュ様の父君の代からその手腕に惚れ込んで見習い以降もずっとレーシュ様を支えています。
だが先の事件からレーシュ様に身寄りはなく、貴族院に行きながら家業を継いでいたのだ。
頭のキレる方だが、やはりまだ成長段階のため資金繰りに苦労なさっている。
先日やってきた上級貴族様に使用人を売るのは断腸の思いだっただろう。
「茶葉の収穫も少し良くなったな。だが流通コストがかさむのをどうにかしないと。やはり季節に左右されるものよりは、一年を通して利益が出るものが必要だ。香水事業も軌道に──」
商人と打ち合わせた金額や今後の流通量を試算して今後の収益を考える。
心無い貴族から商人の真似事と笑われるが、城の仕事だけではどうしても今以上の生活は見込めない。
ある程度のお金は私の裁量で動かすことができるため、家のことは私に一任されている。
「レーシュ様、家の修繕はいかがいたしましょうか」
「見えるところだけでいい。他は後回しだ。くそっ、あのデブの献上品のせいでこっちはてんやわんやだ」
悪態を吐くがレーシュ様としてもあの男との縁を切るわけにはいかない。
かなり苦しい立場にあるため、上位者に守られなければ生きられないのが貴族社会だ。
これまでの何度も暗殺の危険が迫り、何人かの使用人も命を落とした。
近衛兵を雇っているがあまり質はよろしくなく、正直なところ賃金に見合っていない。
ただ留守に備えて、どうしても常駐してもらわないといけない。
「そういえばあの田舎娘に魔法の才能はあったか?」
レーシュ様は資料から目を離して私に報告を促す。
魔法の才が少しでもあれば、時間が掛かるとはいえ金の卵になる可能性がある。
だが残念ながらエステルさんにその才能はなかった。
「いいえ、残念ながら」
「そうか、まあ予想されていたことだ。しかしどうしてあんな田舎娘を呼んだ? 農民が貴族社会で生きていけるほど甘くはないとわかっているはずだ」
レーシュ様にエステルさんの実力についてはお伝えしていない。
もちろん高額な賃金を払っていることもだ。
あの給与の高さは私の賃金を彼女の給与に当て、さらにはこれまで払ってきた使用人分も当てているからに他ならない。
小金貨は貴族でも大金であった。
それほどまでに彼女の能力は稀有なのだ。
今後もし上級貴族様から手を離れた時に頼りになるのは彼女だけ。
レーシュ様の喧嘩になりかけた時には辞めてしまうのではと少し焦ったものだ。
しかし他の貴族の前で主人に恥をかかせるようではいけないので、彼女にも注意はしておいた。
「彼女は前に冒険者としても生きていたので、護衛も兼ねることができるからです。領主様からも魔物討伐の協力が少ないと言われているので、冒険者の知識は役に立つはずです」
「協力というが、こちらに騎士の身内なんていない。俺も文官としての教養しか受けていないからそもそもどうにもならん」
「あの領主様の前では意味がないことはお分かりでしょう」
私が苦言を言うと顔を顰められた。
本人も分かっているだろうが、魔物の活発化に伴って人員か金を出せと領主から言われているのだ。
最近では海も魔物のせいで荒れることが多いため、他の食物に皺寄せがいっている。
どんどん高騰する物価に何か手を打たないと領地としても危ない状態だ。
「お前の言いたいこともわかった。早くこの貧乏生活を抜けないと、いつまで経っても嫁が取れん」
お金や人格の問題だけではないが、もう起きたことはどうしようもないので、少しでも名誉を回復させることが重要だ。
その後に私は城の衛兵が訪ねてきたので対応をする。
「皆殺しですか──!?」
夜にエステルさんが“屋敷を襲撃した者たち”を捕まえ、そして衛兵に引き渡したのだが全員が何者かに殺されたらしい。
どうやら捕まってはまずい輩のため組織が粛清したのだろう。
そんな危険な者達からも狙われるのでは、私だけでも今後危なかった。
エステルさんが来てくれたのは本当に運が良かったかもしれない。
私は自室に戻って自分の仕事に取り掛かる時に、机の上に置いておいた羊皮紙に目がいった。
エステルさんの魔法適性を測った結果が載っており、残念ながら適正なしと書かれている。
しかし魔道具には別の項目も調べられるのだ。
彼女の身体能力値もあのわずかな血液だけである程度調べることができ、どの項目も測定不可のSと書かれていた。
この国で最強と言われている王国騎士団長ですら測定不可の項目はない。
おそらくこの秘密は、魔法よりも希少な才能である“加護“という祝福が関係しているのだろう。
羊皮紙の一部にはこう書かれている。
名前ーーエステル
年齢ーー15
肉体ーーS
技量ーーS
成長ーーS
魔法ーー適正なし
加護ーー剣聖(一騎当千)
剣聖ーーS
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