大繁盛異世界コンビニ

虹色水晶

第1話

 まずは異世界人の商人の事から話そう。彼は。

 その世界の歴史の教科書では「長い距離を旅した男」としか記されていない。

 異世界コンビニによって、間接的に彼は死亡することになっのだ。

 言うなれば敗者であり、「旅人」或いは「商人」としか名前の記載がない。

 彼は大陸の東側。武唐の漁村に産まれた。武唐というのは髪の毛が黒い人間が住む国で、貧しい者は粟や稗を食べ、金持ちや貴族が白米を食べる国だった。

 漁村で産まれた少年は幼い時から家族を養う為に海で採れる魚を売りに出かけた。

 少年はとても賢かった。少なくとも武唐の平均的な人間よりかはずっと賢かったろう。だから気付いたのだ。


「魚は海から遠ければ遠いほど高く売れる」


 すぐに魚を高く売る方法を考える事にした。

 魚は水の外に出すと死んでしまう。死んだら腐ってしまう。腐った魚は売ることができない。


「魚を海の水の中に入れたまま運んだらどうだろうか?」


 駄目だった。泳いでいる時には気付かなかったが、水というのは想像以上に重いのだ。これではすぐに疲れてしまう。近くの町くらいにしか運べないだろう。当然値段もそれなりだ。

 だが少年は賢かった。だから逆に考えた。


「そうだ。魚を生きたまま運べないなら、殺してしまえばいいんだ。水が重いのなら、水を全て奪ってしまえばいいんだ」


 少年は魚を新鮮な状態で陸揚げすると身を開き、板に並べて天日干しにした。よく渇き乾燥した魚は腐らず日保ちもよく、軽かった。

 何より遠くの町まで運べ高く売れた。少年は漁村一番の金持ちになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る