第48話 3年後の約束
「だからさあ、お前もなれよ、冒険者に!」
はぃぃぃ?
何でこの話の流れでそうなる。
こいつの思考回路はマジで分からん。
「えー、どうしてそうなるのかな?」
本当に一体何を考えてるんだ・・・
「ケッ、察しがワリーなー」
お前にだけは言われたくないわ!
「だから、お前が冒険者になれば、正式に助手として雇えるだろーが」
「あぁ、なるほど」
このストーカー探しは俺のテストも兼ねてたって訳だ。
「お前はライラが探してた女もたった1日で見つけたよな。港と川岸に目を付けたことはたしかにイケてたが、それだけじゃフツー見つからねえよ。あれだけ混雑した広いエリアから一人の人間を探し出すなんて1週間あってもキツイぜ」
いつも細かいことは気にしない性格なのに、考えるべき点はちゃんと考えてる。
この辺はさすがに上級冒険者か。ただのアホじゃない。
「ラッキーだったんだよ」
だが俺の秘密は教えてやれないな。今はまだ。
「昨日はそうだったかもな。でもなぁ、ツキだけじゃあ変装は見抜けねーよ」
ほぅ、こいつもしかしたら、ストーカーの変装にも気付いてたのかもな。
俺にそれが見抜けるかどうかも試した?
マーヤ捜索の件をマグレ当たりかどうか確かめようとしたのか・・・
「たしかに変装を見抜いたのは、ただのツキじゃないよ」
「やっぱりな。お前はツキ以外の何かを持ってる。間違いねー」
「だからって冒険者になるつもりもないよ」
「ハッ、弁護士志望だったっけな」
お、イヴァンだけじゃなくてカイトまで知ってたとは。
冒険者は護衛対象の事前調査をそこまでやってきてるってことか。
「けどよー、弁護士になって恋人の家に婿入りなんて決まった人生、楽しいか?」
シャーロットとの婚約のことまで知ってる!
この冒険者ギルドの能力とポリシーは評価に値するだろ。
護衛の本命はあくまで学寮長になったマックスと妻のキャシーだからな。
その後が次期当主のアリスで、
そんな俺にさえキッチリと調査に本腰を入れてるのは素直に凄い。
うーん、冒険者になるという選択肢を視野に入れておくのもアリか・・・
「そんな先のことまで分からないよ。だけど、本当にいーの?」
「なにがだよ?」
「僕が冒険者になって本気を出したら、あっという間にカイトさんに追いついちゃうから助手の仕事なんてできないと思うよ」
「言うじゃねーか」
「だって事実だからね」
俺の挑発に怒るかと思ったら、逆にヤンチャ戦士はニヤリと笑った。
「それはそれでかまわねーよ。むしろもっと面白くなりそーだからな」
んん、俺を助手にするよりも、実はそっちの方が本命なのか。
こいつは、好敵手と書いてライバルを
以前、同期の中で一番出世だと言ってたから、同年代で競い合う相手がいないんだろう。その状況を持ち前の嗅覚がヤバイと告げてるってところか。
「じゃあ、少し考えておくよ」
どっちみち、3年後には内戦が始まってそれどころじゃなくなるがな。
「そうしろ。お前は絶対に冒険者の才能があるからな」
残念、あるのはサッカーの才能だけなんだなぁこれが。
「ありがとう。それじゃあ今日はお疲れ様」
今度こそ家の敷地内に入ろうとする俺にまたまたカイトの声が飛ぶ。
「なあ、やっぱりお前の秘密ちょっとだけ教えてくれねーか?」
カイトは上級冒険者からヤンチャ坊主の顔になってシシシと笑う。
こういう所がどうにも憎めない妙な魅力を持った奴だよな。
だから、つい
「3年後に教えてあげるよ」
「本当か?」
「うん、もし3年間、僕に秘密があることを黙っていることができたらね」
「OK、約束だ」
ああ、その頃にはこの街が内戦に巻き込まれて大混乱に陥ってるだろう。
お前には俺の秘密を話してでも仲間になってもらう。
そして、俺だけじゃなくマックスと女帝の為にも動いてもらうぞ。
ドカカドカカ ガラガラガラ
「ヤベー、騎士が来やがった。俺は消える、じゃまたな!」
走りながらそう言ったカイトの姿は、大通りを低級住宅街に向かって横切り、路地の薄闇の中へ溶けて行った。
しかし、騎士から逃げなきゃいけないってどういうことだよ。
「騎士の後ろにいるのはモア家の馬車ですね」
「それは不味い。俺たちも急いで消えよう」
人それぞれに事情があるってことだな。
そう納得した俺は逃げるように早足で進み玄関のドアをくぐった。
「イヴァンが嘘を吐いているのか!?」
カイトが騎士に驚いて逃げ帰った、11月25日の月曜日の夜。
家族揃ってディナーを共にし、またマックスとキャシーがカレッジへ戻ると、俺は直ぐにルディと自分の部屋へ向かった。
「恐らく、ですが」
「ハッキリとは分からないってこと?」
「昨日、貴方が失った記憶の夢を見ることを黙っていて欲しいと言った時、イヴァンは『構わない』と答えましたが、少し虚言のノイズが乗っていました」
「今日の肥料の実験の時の答えもそうだったんだな」
「はい、彼の言葉にまた歪みを感じました」
二度続いたとなると、偶然じゃなくて必然だ。
「イヴァンはロビンを殺した奴と繋がっているのか・・・」
「いえ、それは無いと思います」
「何故だ?」
「あの男には貴方への害意が微塵もありません。敵ではない筈です」
んんん、つまり、どういうことなんだ?
肉体派にして頭脳派のルディに教えてくれとアイコンタクトしてみる。
「スパイ、でしょうね」
「スパイ!? 誰が・・・どうして
いや、そうじゃない。
落ち着いて最近の状況を考えればおのずと答えは出る。
あぁ、これはもっと身近な所からだろうな。
イヴァンは冒険者で、その冒険者を手配したのは・・・
「マックスか」
「はい、彼の差し金でしょう」
「カイトとライラでワンクッション置いてるのも手が込んでる」
さすが切れ者だ。カイトで疲れさせといて話の分かるイヴァンだもんな。
「彼の物分かりの良さには、つい油断してしまいますものね」
悔しいが完全に警戒心を解いてしまってた。反省だ。
「しかし、親心なのか、警戒心なのか、息子としては判断に迷うよ」
「マックスは貴方の中に何かを見てしまったのでしょう。カイトの様に」
ふぅ、ロビン殺人犯の捜査が振り出しに戻ったから焦ってしまったな。
そのせいで色々と動き過ぎた。目立ち過ぎた。
だがもう、内戦まで時間が無いのも確かだ。
俺にやれることはやっておきたい。
「
「いっそ、マックスを巻き込んでしまうのはどうでしょう?」
「うん良い考えだ。でも、共同出資者の賛同を得てから決めよう」
カイトはともかく、ライラはこれに人生賭けてる所もあるしな。
という訳で、この話はひとまず終わりだ。
今度は、俺の方の本題に入ろう。
「ルディ、君に言っておきたいことがある・・・」
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