第42話 魔法剣士パメラ・ゼリオンの尋問
「現場検証?」
裏庭でダイオウコウモリの
「ガルバーナはただの大物じゃねー。この辺じゃ目撃されたことすらないレアものなんだよ。だからギルドとしても調べないわけにはいかねーのさ」
「私たちもこれから現場検証に立ち会わないといけないの」
「そうなんだ。僕も一緒に行ったほうがいいかな?」
「ロビン君をまた危険な目に遭わせる可能性があるから、ギルドの調査が終わるまでは森に入らないで欲しいそうよ」
まあそうなるだろうな。
俺の護衛を請け負ってるギルドとしては、この状況で万が一があったら言い訳ができないほどの失態になる。頼むからじっとしててくれってところか。
「ガルバーナだけど、まだ他にも山にいると思う?」
「まずいねーだろ。もともと群れる魔獣じゃないし、好物の蛇系魔獣もこの辺の山や森にはほとんどいねーからな。たまたまこっちにハグレてきたんじゃねーか」
「私もそう思うわ。仮にいるとしたら、つがいのメスでしょうね」
もしそうだったら、ちょっと気が引けるな。
魔法で攻撃されて文句をつけにきたら、返り討ちにあって捕獲されて嫁ともお別れになったってことだろ。うーん、そうじゃないことを祈ろう。
「あと、あの洞窟は大丈夫かな?」
「ヘーキヘーキ、あの臭いでみんな逃げてくさ。中まで入れっこねーよ」
「入れたとしても、ロビン君と同じことを考えつく人はいないと思うわ」
そうか。なら安心だ。
となると、現場検証でガルバーナを倒したのは俺だということがバレさえしなければ、何の問題もないな。そこはライラが上手く立ち回ってくれるだろう。
カイトさえ致命的なボケをかまさなければ・・・
「そういや、現場検証の責任者は誰になったんだっけ?」
「パメラよ。昨日、ズラーキンから聞いたでしょ」
あの魔法剣士か!
「うぇ~、アイツ苦手なんだよなぁ。冗談が通じなくて」
「ハァ~、報告書や口頭伝達のミスは冗談とは言わないのよ」
カン カン カン カン
「お、悪魔の話をすれば悪魔が姿を現すってか」
「私が出ます。お二人はロビン様のそばを離れないで下さい」
応接セットからルディだけ立ち上がり、リビングを抜けて十分な広さのある玄関ロビーを進み、慎重にドアを開けた。
「私は冒険者ギルドのパメラ・ゼリオンと申します。こちらにライラとカイトという者が来ている筈なのですが」
「おい、こっちだこっち!」
「カイト? 貴方どうしてそんな所に!?」
これは、よほど親しい者しか家に招待しないというこの国の文化によるショックだな。
立って歩き始めると、当然、護衛の二人も付いてきた。
「こんにちわ。昨日も会ったけど、ロビン・モアです。よろしくね」
「パメラです。こちらこそ宜しくお願い致しますわ」
その言葉とは裏腹に、パメラの透き通ったオーシャンブルーの瞳は俺など眼中に無いと訴えていた。
「どうぞ、パメラさんも上がってください」
「えっ?」
この国では有り得ない申し出に、初めて俺に興味を持った表情をした魔法剣士だったが、その答えは拒絶だった。
「いえ、緊急の任務がありますので。申し訳ありませんが、ライラとカイトの二人も連れて行かせて戴きます」
「現場検証の話は聞いてるよ。僕はこの家でじっとしてるから大丈夫」
「ご理解、感謝致します。さあ、二人とも直ぐに出発しますよ」
「かったりーけど仕方ねーか。ちょっくら行ってくらー」
「どのぐらいで終わるのかな?」
「何事も無ければ、二時間程度で終わりますわ」
「じゃあ、お昼を作って待ってるね」
「お、ありがてー。何を食わせてくれるんだ?」
「一昨日狩った鹿肉がいっぱい余ってるんだよ」
「昼からステーキとは豪勢だな。よっしゃー、さっさと終わらせて肉にしようぜ」
「でも、そんな迷惑をかけて本当に良いのかしら・・・」
「迷惑じゃないよ。僕がそうしてほしいんだ」
まだ少し迷ってる感じのライラは、巨体のメイドに目で問いかけた。
「ロビン様の望みを叶えて頂けると嬉しく思います」
「分かったわ、ロビン君。じゃあお世話になります」
よし、あとは最後の難敵をどうにか攻略したいな。
「パメラさんもぜひどうぞ!」
この流れになることが分かっていたかのように魔法剣士は即答する。
「ご厚意だけ戴いておきます。親密な相手でもない方のプライベートな招待をお受けする訳にはいきませんので」
そのお断りの模範解答を予想していた俺も即答する。
「じゃあ、事情聴取のランチにすればいいんじゃない。これならお仕事だから問題ないでしょ?」
「な・・・」
ふふふ、この俺の切り返しまでは計算していなかったようだな。
法的には成人年齢とはいえ、12歳で外見も態度も子供っぽい俺を甘く見たお前の負けだ。ここは素直に屈しておけ。
「ウヒャヒャヒャ、こんな坊主に1本取られちまったな」
「だからアンタは黙ってなさい、カイト。話が進まないでしょ」
まったくだ。パメラが意固地になったらどうしてくれる。お前はもうツッコミは廃業しろ。はぁ、仕方ない、俺が背中をもう一押ししてやるか。
「本当は僕自身がギルドに行ってみたかったんだけど、危険だからって許してくれないし、僕の自宅は父さんの引っ越しで大変なことになってるから、ここでパメラさんが事情聴取してくれると、とっても助かるんだよ」
「・・・そういうことでしたら、私も
んん? 言葉は短いが、つまりOKってことだよな。
ここは魔法戦士の気が変わらない内に礼を言って確定させておこう。
「ありがとうパメラさん!」
「礼には及びませんわ」
「話はついたみたいだから、とっとと片付けちまおーぜ」
ステーキランチでスイッチが入ったカイトに押されるようにパメラとライラは森へ向かって行った。
「どうして隠れる場所の無い小川へ逃げたのですか?」
現場検証から戻ってきたパメラ、カイト、ライラの三人を交えての昼食の席で、大きな丸メガネを右手でクイっと直しながら魔法戦士が俺を問い質してきた。
俺はライラと作文した通りに答える。
「あの魔獣は火を吐くと聞いたから、森が火事にならないようにだよ」
「自分の身が危険だとは思わなかったのですか?」
「うーん、そこまで考えられなかったよ。それに、ライラさんとゴーレムがそばにいるから大丈夫かなって」
ここが俺たちの書いたシナリオの一番弱い部分だ。
パメラの言う通りで身を隠す場所の無い小川に出るなど自殺行為でしかない。
だが、森の中でライラが倒したとすると、その偽装工作が大変になる。
その時間的、体力的な余裕が無かった。
もちろん、実際の戦闘場所である洞窟前は、なぜ山を登ってまでそんなところに行ったんだという話になるから、これもシナリオに使えなかった。
「怪鳥ガルバーナが倒されるところを見ていましたか?」
「うん、見たよ!」
「それでは、貴方が見たままを話して下さい」
「ライラさんが魔法のつむじ風で攻撃したら、ガルバーナは真っ赤な翼を閉じて顔と体を隠して防御したんだ。でも、翼を閉じたから地面に落ちてきた。そしてまた飛び上がろうとして翼を開いたところにゴーレムがパンチして倒したんだ!」
「その戦闘で貴方は負傷しましたか?」
「ガルバーナの炎でちょっと火傷した。でもルディが治癒を使ってくれたから、もうほとんど治ったよ。ほらココ」
俺は右腕の火傷痕をパメラに見せつけた。
この魔法戦士が何を考えているのかは想像がつく。
「俺たちがこいつをほったらかしにして魔獣討伐に出たと疑ってんな?」
「えー、ひどいなぁ。僕たちはずっと一緒だったよ。ねえ、ルディ」
「間違いありません。ロビン様を一人にするなど有り得ないことです」
今のアマゾネス嫁の言葉には熱がこもってたな。
離れていた時に俺が襲われたことが痛恨の極みだったんだろう。
「マティルダさん、貴方は炎の魔法がどの程度扱えるのでしょうか?」
「私の魔法の主属性は土ですから、火が出せる程度で、火を操れるレベルにはありません」
嘘だけどな。こう言っておかないと疑惑を持たれるかもしれんのだ。
「では、炎で倒されていたダイオウコウモリは、全てガルバーナの攻撃によるものという事ですか?」
「はい。少なくとも私ではありません」
「今回の事件の全体像ですが、現場にいた貴方の見解を聞かせて下さい」
「ダイオウコウモリの群れが山の方から現れて、森の広場にいた私たちのところへやって来ました。今思えば、怪鳥ガルバーナに追い回され、ガルバーナの注意を私たちに向けたかったのでしょう。この時、私たちは怪鳥の存在に気付いていませんでしたので、ダイオウコウモリの群れが襲ってきたと判断し迎撃しました。その際、ライラさんの風術がコウモリたちの後ろにいた怪鳥にも命中したようです。怒ったガルバーナは標的を私たちに変えました。相手が悪すぎたので、ロビン様をライラさんとゴーレムに託して森の中へ逃がし、私とカイトさんが怪鳥とコウモリの注意を引きつけました。しかし、ガルバーナはロビン様の後を追って行ってしまった。実際は、風術を使ったライラさんを追ったのでしょう。私の判断ミスです。その後は、ロビン様を探すために森の中へ入りましたが、小川の草原で見つけた時には既に決着がついていました。以上が私の見解になります」
「ありがとうございました。では、小川付近と広場には土が掘り起こされた跡がいくつかありましたが、それは貴方の魔法によるものですか?」
「はい。ガルバーナの放った炎が草に燃え移っていたので、消火の為に地術を使用しました。ライラさんは魔力が尽きて水術を使えませんでしたから」
「ま、どっちみち水術初段のライラじゃ上手く消火できなかったろうけどな」
「アンタは黙ってなさい。私の肉を半分あげるから」
「サンキュー」
遠慮という言葉を知らなそうなカイトは夢中で肉を頬張り始める。
「ライラさん、冒険者なんだから、ちゃんと食べないとダメだよ」
「え、うん、でも・・・」
「こいつダイエットのつもりなんだよ。今さらオセーっての」
「ば、馬鹿じゃないの、そんなつもりじゃないわ!」
「そうだよね。ライラさんにはダイエットなんて必要ないもん」
「「「「「 えっ? 」」」」」
食卓についた俺を除く5人全員が疑問を呈した。
地球人の俺には、ライラのスタイルは肉付きの良いナイスバディなんだが、この世界の人間はオッパイを
しかし、俺は地球人代表として巨乳を守らねばならん。
つまらんダイエットなどで消させはしない。絶対にだ。
「ライラさんは、そのままで十分に魅力的だよ」
俺は心の底からそう言った。
一点の曇りもないピカピカに輝くような声で。
「そ、そうじゃな。若いもんは発育良好が一番じゃよ」
「あ、ありがとう、ロビン君。あぁ、本当に残念だわ・・・」
「お、おおぉ、冗談抜きで、お前ってマジで大物かもしれねーな」
バキン!
「失礼しました・・・」
ああっ、アマゾネス嫁がナイフを皿に突き立てて割ってしまった。
遺憾な。少しばかり調子に乗りすぎた。
でも、ライラを見てると、もどかしくてつい褒めてあげたくなる。
もっと自信を持てばいいのに。
とりあえず、ルディには今夜も頑張るからとアイコンタクトしておいた。
昨夜の情事を思い出したアマゾネス嫁の瞳が潤んで伏せれられた。
その時、パメラの目が光った。
「・・・そういうこと。これは使えるかもしれませんわね」
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