第27話 恋人シャーロット・グレイブナーの追憶

「いや、私はあの日、中央公園には行っていない」

 俺の目を真っ直ぐ見つめるシャーロットの凛とした声が応接間に響く。


「そうなんだ。じゃあ僕はどうして中央公園に行ったんだろう?」

「私もそれが聞きたかった。何故私との約束を反故にしたのかと」

「約束?」

「そうだ。あの日は私と一緒に買い物に付き合ってくれる約束をしていた」

「それでどうなったの?」

「クラス代表の仕事があった私が遅れて正門へ行くと、待っているはずのロビンの姿が無かった。教室や食堂など探してみたが見つけられなかったので仕方なく一人で商店街へ行ったんだ」


 ふーむ、ロビンは約束を破るようなタイプじゃない。

 恐らく誰かに連れて行かれたんだろう。

 だがそれは、シャーロットの話が事実だとしたらだがな。

 当然、話の裏とアリバイの確認をせねばなるまい。


「商店街ではどのお店で買い物をしたの?」

 

「・・・下着専門店だ」

 昨日と同じ制服姿のロビンの恋人は急にモジモジし始めた。

 しかし、そんな場所にロビンを付き合わせる予定だったとはな。

 この娘は発育が良い分、そっち方面も積極的のようだ。


「下着を僕と一緒に買う約束なんてしてたんだ?」

 恥ずかしがってるシャーロットが可愛かったので、ついからかってみた。

 うわぁ君ってエッチなんだね~という感じで。

 

「そ、それはお前が・・・もっと色っぽい下着が良いと言うから・・・」


 ロビンかーい!


 またお前という人間が分からなくなったよ、ロビン。

 煉獄れんごくではあんなに無邪気で本物の天使より天使だったお前が、下界では12歳で恋人がいるわ、その恋人にエロい下着を要求するわで大人顔負けじゃねーか。

 

 あっ、まさかとは思うがお前、既にシャーロットと・・・ゴクリ


「僕たちの関係はどこまで進んでたの?」


 顔を真っ赤にして伏せながら消え入りそうな声でロビンの恋人は告白した。


「・・・・・・最後までだ」


 ええええええええええ!

 

 ロビンお前マジで何してんだよぉ。

 いくらこの異世界では成人年齢だからって早過ぎるだろ。


 そんなこと夢にも思わんかった俺はもうルディと結婚の約束したんだぞ。

 そのアマゾネス嫁は隣でティーカップを破壊し小刻みに震えていた。

 これはかつてないほどヤバイ。

 とにかく事実関係を正確に把握しておかんと。


「ぼ、僕たちはいつ結ばれたのかな?」


「忘れもしない三か月前の日曜日だよ」

「その、どちらから、誘ったというか・・・ね?」

「お前の方から執拗に体を求めてきたのだ」

「そ、そうだったんだ・・・」

「まだ早いと宥めたのだが、あれほど懇願されてはこばめなかった」

 ああ、少女みたいに可愛いロビンに激しくお願いされたら断れないよなぁ。

 だけど、そのロビンの本性は肉食系だったんだ。

 人は見かけによらないってのを今日ほど痛感しことはない。


「それからもお前は事あるごとに体を求めてきた」

 おいおい、まだ続くのかよぉ。


「事あるごと、というと?」

「週に二三にさん回のペースだったな」

「そ、そんなに頻繁に、一体どこで?」


「私の部屋が多かったが、学校でも時々・・・」 


「学校でぇ!?」


「お前が我慢できないと泣くから仕方なかったのだ」

 ロビーーーン!

 本当にお前って奴はっ。


 んんん、いや待て、たしかこの異世界の男は同じ女と三回やったら飽きてしまってもう出来なくなる筈だ。同じ相手と間をおかずやる場合は、別の女とやってリフレッシュする必要があると聞いた。


 ということは、シャーロットの他にも女がいるのか!


 もし学校に別の女が、浮気相手がいて、それをこの勇ましい少女が知ってしまったらロビン殺害にまで至った可能性はある。

 これは絶対に確認しておかないと。


「その頻度だと僕には他にも相手がいたのかな?」


「ああ、家でメイドに処理してもらっていると言っていたぞ」


 ロビンもかーい!


 嘘だろぉ。

 妻子がいるモア家の館でメイドに性処理させる父マックスをちょっと軽蔑してしまっていたが、ロビンも同じことやってたとは・・・


 だが、一体どのメイドとやってたんだ?


 シャーロットじゃなくてそのメイドとこじれて殺された線も出てきた。

 モア家で聞き込みをしていたルディなら何か知ってるかもしれない。

 でも今はシャーロットの爆弾発言でフリーズしてるから無理か。後回しだ。

 それに一度、二人の関係から離れて別の話題に切り替えよう。

 これ以上、ルディを刺激したらどうなるか分からん。


「僕が学校で苛められてたというのは本当かな?」


「・・・恐らく事実だと思う」


「君は何か知ってるの?」


「お前はとても辛そうな顔を見せる事がたまにあった。だが理由を訊いても話してくれなったかんだ。私も独自に調べてみたが何も分からなかった」


「何も心当たりはないんだ?」

「ロビンの周りは良い奴ばかりだ。誰か上級生に目を付けられたのかもしれないが、そうなると見当もつかない」

 うーん、苛めの件は収穫なしか。

 かなり期待してたんだが参ったな。

 だがまだだ。まだ諦めん。


「僕は苛めっ子に木から落とされたのかな?」


「私もそれは考えた」

「どうして?」

「お前は木に登ってリンゴを摘まみ食いするような男ではない」

「みんなそう言うよ。じゃあやっぱり・・・」

「ああ、その可能性は高い。だがもう心配はいらないぞ」

「え?」


「これからはずっと私が一緒にいて守ってやるからな」

 ズキューン!

 凛々しい笑顔にハートを射抜かれた。

 ルディがいなかったら即落ちしてたと思うわ。

 そのアマゾネス嫁は俺の隣でまた小刻みに震え始めてるがな。


「ありがとう。でもまだしばらくは学校に行けそうにないんだ」


「そうか。無理はしない方が良い。じっくりと療養してくれ」

 今度は恋人として健気な顔を見せて俺を案じてくれた。

 正直ヤバイ。油断したら惚れてしまいそうだ。

 あぁ、これからどう付き合っていけばいいんだろうなぁ。

 俺にはもうルディがいるってのにまた新たな三角関係勃発かよ。


 あっ、三角関係と言えば、ロビンの母キャシーのことを訊かないと。


「僕のママが迷惑をかけてるみたいだけど大丈夫?」


「無理ないさ。あれだけお前のことを溺愛してるんだから」

「君は怒ってないの?」

「まさか、逆に私が怒られるのは仕方ないと思ってるよ」

「どうして?」

「だって私は最愛の息子を勝手に奪ってしまうんだから」

「勝手に奪うってどういうこと?」


「本当に忘れてしまったんだな・・・あの約束の事も」


「ゴメンね。まだ何も思い出せないでいるんだ」

 ああ、これは嫌な予感がする。

 俺の長年培ってきた勝負勘が当たると告げてきた。

 そして、実際にその通りになった。

 

「私達は15歳になったら、結婚すると決めていたんだ」

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