第25話 従姉ブリジット・ギルウェイの証言

 アリスまで五人家族ディス!


 モア家の寵児ちょうじとはいえ7歳の女の子まで5という数字を忌避するとはな。

 この異世界の6崇拝は完全に社会に浸透してるようだ。

 

「その時はどうするの?」

「キャサリンが私を家に帰して四人家族にするのでしょ」

「そんなの嫌よ!絶対にダメだわ!」

 またアリスが泣きそうになってしまってる。

 ここは兄として可憐な妹の為に何とかしてやりたい。


「僕が結婚して家を出るか、お嫁さんと一緒にココに住めばいいんだよ」

 

「そんな事になったらキャシーが大騒ぎするでしょうね」

 ああ、確かにそうなってしまうか。

 しかし、ブリジットの言葉に少しトゲを感じる。

 やはりキャシーと仲が悪いんじゃないか。


「ブリジットはママのことあまり好きじゃないのかな?」


「・・・そうね。正直に言えば嫌いだわ」


「どうして?」


「あなたと同じ理由よ」


 それは、生前のロビンが愛情を押し売りしてくる母を嫌っていたということか。

 キャシー犯行説で推測したことは正しかったんだ。


「僕はママのことを嫌っていたの?」


「成人して恋人もいるのに束縛しようとするのだから当然でしょう」

「ブリジットはシャーロットさんの件でお兄様の味方をしてくれていたのよ」

 へぇ、それは意外だな。

 人の色恋沙汰に干渉してくるタイプには見えないんだが。


 あっ、ここで6の数字崇拝と5の数字忌避が関係してるんじゃないか?


 俺がシャーロットの家に婿入りしてマックスが学寮長になって家を出れば5を回避して4人になる。だから後押ししてくれていたとも考えられるな。

 さらに言えば、キャシーの反対が強すぎて俺の婿入りが不可能だと判断したブリジットが俺を殺したのかもしれん。

 まぁ、そこまでしてこの家に居たい理由があればの話だが。


「ブリジットは僕とシャーロットの付き合いに反対じゃないんだね?」


「別にどっちでもないわ」

「えっ?」

「私はキャサリンの態度がおかしいから、そう言ってただけよ」

「じゃあ僕が家を出ても出なくてもどうでもいいんだ?」

「私はモア家の人間ではないのだから関係ないわ」

 なるほど。無愛想な従姉らしい考えで筋が通ってる。

 

「ブリジットはアリスの家庭教師を辞めた後はどうするの?」


「大学に戻って研究を続けるわ」

「研究っていうと?」

「ブリジットは遺跡や魔獣の研究をしてるのよ」

 アリスが鼻高々といった感じで教えてくれた。

 大学に戻って好きな研究に没頭するのなら、この家に執着する理由なんてなさそうだな。

 あとは、キャシーと他に確執があるかどうかだ。

 俺を殺して絶望させたいほどキャシーを憎んでいるかどうかだ。


「僕とのこと以外でママを嫌いだったりする?」


「別に。むしろ感謝してるわ。伯父との間に三人も子を作ってくれて」

 

 ふむ、嘘じゃなさそうだ。感情の揺らぎが全く感じれられなかった。

 その美貌の従姉は愛おしそうにアリスを見て特に貴方をねと目で伝えている。

 妹もその愛情を心から喜んでいた。

 アリスにしてみればこの家で頼りになるのはブリジットだけなのだろう。


 父は選挙戦で家に居ない、母はロビンのことで嫉妬してくる、姉は家族にすら無関心、そしてロビンは無能ときてる。

 ブリジットに出て行かれるのを嫌がるのは当たり前だな。

 

 どうやらこの二人は事件と無関係みたいだ。

 ロビンを殺す動機らしい動機が見当たらない。

 こうして一緒にいればいるほど、アリスは無邪気で快活で聡明な女の子で、ブリジットは無愛想だけど精神的に安定した大人の女性だと分かる。


 この二人なら、仮にロビンを殺す必要があったとしても、あんな杜撰ずさんなやり方ではなくてもっと計画的に殺人を実行しだだろう。

 ただ、まだ俺の知らない事実があるかもしれないので、アリバイの確認だけはしておくべきだな。


「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「なあに、お兄様?」


「どうして僕は木になんて登ったんだろう?」

「私もそこが気になってたの。お兄様らしくなくて本当に不思議だわ」

「恋人に良いところでも見せたかったんじゃないのかしら」


「僕はシャーロットと一緒だったのかな?」

「彼女に直接聞いてみないと分からないわ」

 誰もまともに転落事故を調べてないんだな。人が死んでるってのに。

 ま、明日、シャーロットにけば済むけどな。


「アリスたちはずっとおうちにいたの?」

 

「ええ、ママとメイドたちが探しに行ったから、お兄様が帰って来た時のためにお留守番していたの」


 アリバイもあるようだな。

 よし、ひとまずこの二人は容疑者から外してもいいだろう。

 さんざん疑って悪かったよ。

 これからはできるだけ仲良くやっていきたいもんだ。

 特にアリスはいくら優秀でもまだ7歳だからな。

 兄である俺が可能な限り力になってあげなくてはならん。


 さて、こうなると第一容疑者の母キャシーと恋人シャーロットとの三角関係によって起こった殺人という線がより濃厚になってくるな。

 そのキャシーが痺れを切らしそうな頃合いだ。

 ぼちぼち妹の部屋をおいとまするとしよう。




「気持ち良い、ロビン?」

「うん、とっても気持ちいいよ、ママ」

「キャサリン様、それ以上はロビン様のお身体にさわります」


 母キャシーの部屋のバスルームで別の三角関係が出来上がっていた。

 バスタブの中で肌を密着をさせロビンの全身を海綿スポンジで洗ってくれているキャシー、それをナース服姿でそばに控えて注視しているアマゾネス嫁のルディ。

 その二人がロビンを巡って対立していた。


「邪魔をするなら出て行ってもらいますわよ」

「ロビン様の敏感な場所を刺激し過ぎです」

「息子の身体のことは私が一番良く分かってますわ。ロビンならもう少し我慢できます。そうでしょ、ロビン?」

 おいおい、やっぱり変だぞこのママさんは。

 なんでそんなことまで息子のことを把握してるんだよ?


「うん、でもママのことも洗ってあげたいから代わるね」

 俺はスポンジを奪って有無を言わさずキャシーを磨き始めた。


「気持ちいい、ママ?」

「あぁ・・・とっても気持ち良いわ、ロビン」

 最愛の息子に奉仕されるという至福にキャシーは蕩け切っていた。


 こうやってアリスとお茶会させてくれたお礼をしていおかないとな。

 今後もお願いを聞いてもらう為にも。

 ま、単に美女の身体を洗うのが楽しいだけだったりするが。

 俺はルティに冷たい目で睨まれながら美人ママの肌を堪能した。



「パパが学寮長になって家を出たらどうするの?」

 一緒のベッドで隣に眠るキャシーにアリスの懸念を訊いてみた。


「何も変わらないわ。これまで通りずっと一緒よ」

 三十路の美女はロビンを抱き寄せて頬にキスをする。


「でも五人家族になっちゃうよね」

「ブリジットを家に帰すから大丈夫よ」

 それは止めてくれ。

 アリスが悲しむ。

 

「僕が婿入りするか、お嫁さんと一緒にここに住むのはどう?」


「何を言うのロビン!?そんなの絶対にダメですからね!」

「どうして? 男は婿入りするのが普通なんでしょ」

「ロビンは特別よ。ずっとこの家に居ればいいの」


「じゃあ、僕はお嫁さんとこの家に住むの?」

「そうよ。でもまだずっと先の話だわ」

 俺の言葉で動揺しまくってるキャシーは不安をかき消すようにキスの雨を降らし始めた。この息子への依存ぶりはやはり異常だ。

 ここはもう少し揺さぶってみるか。

 何か決定的なことを吐くかもしれない。 


「でも、僕の恋人は一人娘だから婿入りしてあげないとダメみいただよ」


「あぁ、アリスたちから嘘を聞かされたのね」


「ウソ?」


 一体何を言いだすんだこの美人ママは。

 あの天真爛漫な妹がロビンだます訳がないだろうに。

 だがキャシーはこれまでの前提をくつがすとんでもないことを言い放った。


 「いいことロビン、シャーロットは貴方の恋人でも何でもないのよ」

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