第21話 ロビン・モアの恋人

「そうじゃよ。ワシが蘇生に失敗してしもうたんじゃ・・・」

 やっぱりそうだったか。

 最初からちょっと変だとは薄々思っていたが色々考えてる内に確信に変わった。

 そして今、その確認も取れた。


「だがその件について俺は何もくつもりはない」

「本人からは何も聞いとらんのか?」

「ルディには俺をだましてるなら騙し通してくれと言っておいた。人生には知らない方が良いってこともあるしな」

「そうじゃの」

「だから、俺が気付いてることはルディには黙っていてくれ」

「分かったわい。じゃがマディには嘘は通用せんぞ」

「ま、その時はその時で仕方ないさ」

 


「・・・なるほどの。つまり、どうせ失敗して他人が憑依するのが分かってるからワシはロビンを蘇生させようとしたという仮説だったわけじゃ」

「そういうこと。かなり無理のある仮説だったのは認める」

「ふん、まぁ実際に失敗してお前さんを召喚したんじゃから何も言えんわい」

「だけどな、ロビンの召喚はあと一歩で成功してたぞ」

「そりゃ本当か!?」

「ああ本当さ。でもロビンが生き返るのを嫌がってな。成り行きで俺が身代わりになったってわけだ」

「ロビンさえ同意しとれば成功しとったんじゃな?」

「まあそうなるな」

「そうか!遂に完成したか!ワシはやったぞー!」

 何かメチャクチャ喜んでるぞこの爺さん。

 死者を呼び戻す術を完成させたんだから気持ちは分からんでもないがな。

 しかし、今は他にやることがあるだろ。


「そのロビンだが、よみがえりを死ぬほど嫌がってたぞ」

「おお、そりゃどうしてなんじゃ?」

「時間が無くて聞かなかった。まさか殺されてるとは思わんかったからな」

「キャシーとの関係がそこまで悪化しとったんかのう」

「死んで煉獄れんごくにいるのが嬉しくてたまらないという様子だった」

「そこまで絶望しとったのか・・・」

「ああ、今思えば不憫ふびんだし、ちょっとに落ちないな」

「何がじゃ?」


「母親と確執があって殺されたとしても、よみがえりをあれほど泣いて嫌がるものかな? 恋人だっていたし仮にも成人してる男なんだぞ。俺なら喜んで生き返ってやり直すけどな」


「むぅ、一理あるの」

「もっと他に原因がある気がするんだ。俺がいた世界での例を挙げるとしたら、学校で酷い苛めを受けてるとか、家で両親から虐待を受けてるとかな」

「少なくともワシはそんな話を聞いとらんがのう」

 ドクターのアンテナ性能が低いのはもう分かってる。

 家や学校で何が起こっていたのかキッチリ調べるべきだ。


「恐らく、その辺りにロビンが殺された理由が隠れてる筈だ」


「あ・・・言われてみれば、ロビンはよく怪我をしとったわい」

 おいおい情報持ってるんじゃないか。早く言ってくれよ。

「何処でどんな怪我をしてた?」

「学校での打撲が多かったの。じゃがロビンは転んだと言うとったぞ」

「転ばされたんだ。バレないように殴ったり蹴ったりしないのが悪質だな」

「じゃあ本当に苛められとったのか?」

「恐らくな。ちょっと学校へ行くのが楽しみになってきたぞ」

「どうするつもりじゃ?」


「復讐するに決まってるだろ。10倍返しでな」


「おいおい、今はそれどころじゃないじゃろお」


「だがな、その苛めっ子が犯人かもしれないんだ」


「おおおっ、確かにそうじゃの」

 それに俺は単純に許せないんだよ。

 あんな無邪気で純粋で元気だったロビンを平気で泣かせる奴がな。

 必ず見つけて二度と苛めなんかできないようにしてやる。


「ま、もちろん現時点ではキャシーが最重要容疑者だけどな」

「いやしかし、ワシに蘇生を依頼したのは何故じゃ?」

「激情にかられて殺した後に我に返って反省したのかもしれない」

「その可能性は無いとは言えんのう」

いずれにせよリンゴの件だけはハッキリとさせないとな」

「どうやってき出すつもりじゃ?」

「正直まだ分からん。これから考えるさ」

 それに、他にも考えないといけないことがたくさんある。

 でも俺は情報分析が苦手なんだよなあ。あぁ山内がいてくれたら・・・




「手錠外すからちょっとじっとしててくれ」

 ガチャン・・・ガチャン

 アマゾネス嫁の両手を冷たい鉄の鎖から解き放つ。

 するとルディは待ちかねたように俺の身体を抱きしめた。

 屈強な女戦士にサバ折りにされるかもと最初は怯えもしたが今は安心して身を任せている。

 アマゾネス嫁の身体はすっかり骨抜きになってるからだ。

 今の状態では人間と同じ程度の力しか出ないらしい。

 どうやら俺は一騎当千のアマゾネスの殺し方を知ってしまったようだ。


「満足して頂けたかな?」

「・・・はい、素敵でした」

「モア家の館で嫌な思いをさせた埋め合わせができて良かったよ」

「妻だけと言ってたのに直ぐに浮気するなんて騙されました」

「スケベ心があったのは否定しないがあれは体を張った潜入捜査だから!」

「それでは、これからもまだするつもりなのですね」

「うっ、そうです。事件解決まで続けます・・・」

「・・・仕方ないですね。その代わり必ず埋め合わせして頂きます」

 おおっ、そんなのこっちからお願いしたいぐらいだよ!

 感激した俺は愛と感謝のベロチューを捧げた。

 

「シャーロットに会いたいな」

「舌の根の乾かぬ内にもう次の浮気相手と密会ですか」

「ええっ、事件当日のこと訊きたいだけだよ。もぅ分かってるくせに」

「クスッ、御免なさい。ちょっと言ってみたかったんです」

 へぇ、そんな冗談を言うのを初めて聞いたよ。

 俺たちの関係が深まってきてる証拠だな。良い感じだ。


「話を戻すけどシャーロットに何処かで会えないかな?」

「また学校へ通うのが一番普通に接触できる選択肢ですね」

「だけど今はまだ無理だ。昼間はここへ通って三人で捜査会議をしたいし、何よりもルディと種付けをしたい。精魂尽きるまでな」

 アマゾネス嫁も同じ気持ちだろとボディコンタクトで伝えてみた。

「そ、そうですね。学校に通うのは当然却下です」

 ふふふ、嫁さんと意見が一致して嬉しいよ。


「かと言って自宅に押し掛けるのも不味いよなぁ」

「はい、昼間はここで治療を受けていることになってますから」

「うーん、通学路の人気ひとけの少ない場所で待ち伏せするしかないか」

「私が手紙を渡しても良いのですがこの体では信用されないかもしれません」

「そ、そうだな。取り合えず待ち伏せ作戦でいこう。失敗したらまた考えるさ」

「分かりました。シャーロットの通学路を調べておきます」

「頼むよ。彼女には訊きたいことがたくさんあるんだ」

「昼食の席で話されていたロビンを苛めていた人物ですね?」

「そうだ。恋人のシャーロットなら何か知ってると思う」

「ええ、運動も得意なようなので苛めっ子からロビンを助けていたかも」

「情けない話だがそうだと助かるな。苛めっ子の身元が割れる」


 ルディが少し考えてから、心配そうな顔で忠告してきた。

「シャーロットには会う必要がありますが、最初は気を付けませんと」

「というと?」


「彼女が犯人という可能性もあります」


 あっ、確かにその線もあるな。

 事件当日に中央公園でロビンと一緒だったのなら、シャーロットが生前のロビンに最後に会った人物なのかもしれん。

 これまでの話だと身体能力だってロビンより遥かに上のようだからな。

 痴情のもつれでついカッとなってやったなんてよくある話だ。

 その場合、学校に他にも別の女を作ってた可能性もあるか・・・


 ロビン、お前一体どんな人間だったんだ?


「とにかく、シャーロットには俺も気を付けるよ」

「はい、油断は禁物です」

「でも本当にルディは賢いよな。俺は抜けてるから助かるよ」

 ではご褒美をとアイコンタクトされたので時間が許す限り乳繰ちちくり合った。




「ロビン、気を付けて下さい。何者かが待ち伏せしています」

 もう少しでモア家の館に到着するという地点でルディから警告が飛んだ。

 待ち伏せ? 何処かで聞いた言葉だ。

「標的はロビンではないかもしれませんが、こちらをうかがっています」

 御者台から聞こえるルディの声は落ち着いている。

 俺を不安にさせない為だろうが実際にルディの脅威ではないのだろう。


 馬車の窓から少し頭を出して前を見てみる。

 すると街路樹の陰から人が飛び出してきてこちらに向かってきた。

 女性だ。

 それも制服のようなものを着ている女の子だ。

 

「怪しい者じゃない!止まってくれ!」


 ルディは馬車を止めて臨戦態勢で静かに女の子を睨んでいる。

 そのアマゾネス相手に一歩も引かない女の子をよく見ると、体格や年齢は女子高生といったところか。

 身長は165センチぐらいで引き締まった良い身体をしている。

 剣道か弓道でもやってそうなほど表情も凛々しい。

 しかし一体誰だろう?

 年齢的にはアイリーンの友達だけど、あの姉さんに友達なんているのか。

 これはもう素直に訊いてみるのが一番だな。


「あなたは誰なの? 僕はロビン・モアだけど僕に何か用でもあるの?」

「ロビン!本当にロビンなのか?私だ!私だよ!」

 え、私私わたしわたし詐欺みたいになってきたな。

 だが、少し引き気味の俺にその女子高生(仮)は驚くべきことを言ってのけた。


「本当に忘れてしまったのか!私だ・・・お前の恋人のシャーロットだ!」

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