第18話 歪んだ愛情

 「ママ、朝だよ。起きて、ねえ起きてよ」

 キャシーの耳元で何度か囁くと美人ママが目を開けてくれた。

 「まだ早いわ。もっと一緒に寝ていましょ、ロビン」

 んん?

 もしかして最愛の息子とまだベッドにいたくて狸寝入たぬきねいりしてたのか。

 まぁそれならこっちも好都合だ。

 俺もまだベッドの中でやっておかないとならないことがある。


 「うん、僕もまだママと一緒にいたかったんだ」

 「まあ嬉しいわロビン、大好きよ」

 「本当に?」

 「もちろん本当よ。信じてくれないの?」

 「僕と愛の儀式をしてくれたら信じてあげる」

 「ママ何だってするわ。どうすれば良いか教えてちょうだい」

 「じゃあ最初に僕からしてあげるね」

 俺は隣で横たわる美女の胸元へ顔を持って行く。


 「ちょっと痛いかもしれないけど我慢してね」

 そう言うなり口を大きく開けてオッパイを頬張ると少し強めに噛んだ。

 キャシーは小さく悲鳴をあげて驚いていたが何も言わず見守っている。

 俺はもう一方のオッパイにも同じことをした。

 そうしてその二つの大きな山が俺のものだという跡を残した。

 

 「さあ、今度はママの番だよ。僕の肩にしてみて」


 キャシーは戸惑いながらも興奮気味に同じことをしてくれた。

 そして照れ隠しのように訊いてきた。

 「もぉ一体こんなこと誰から教わったの?」

 「ドクターの家にあった本に書いてあったんだ」

 「まあドクターったらそんな本をロビンに見せるなんて」

 「いいじゃない。僕だってもう大人なんだから」


 「・・・そうよね。でもママは寂しいわ」

 これは、いつまでも自分の子供でいて欲しいという心境なんだろうか。

 息子を溺愛できあいしてるというよりも、息子に依存してるのかもしれん。

 そして生前のロビンも母親に依存してて共依存の関係だったのかも。

 マックスとの夫婦仲は円満だと聞いていたが、もし二人が共依存だったのなら、実は冷え切っていた可能性があるし、ロビンとマックスの父子関係も途切れていたと考えられる。

 ふぅ、この一家の情報をもっと集めないと。


 「ママ、お腹が空いちゃった。一緒に何か食べようよ」

 「あらあら、本当に食欲が出てきたのね。良くなってる証拠ね」

 キャシーは俺の下着からシャツまで全て着せてくれてから自分も服を着て食堂へ俺を連れて行く。ルディも静かに後ろからついてきた。

 食堂には妹のアリスと従姉のブリジットが居た。

 父のマックスと姉のアイリーンの姿はない。


 「ママ、お兄様、おはようございます」

 美少女はテーブルに座っていても元気溌溂ムードを発散させていた。

 「おはよう、アリス」

 皆がそれぞれに朝の挨拶を終えると俺たちも朝食をとり始めた。

 

 「パパと姉さんはどうしたの?」

 「マックスは仕事に、アイリーンは学校にもう出かけましたよ」

 ロビンにパンを食べさせながらキャシーが答えてくれた。

 「ふーん、アリスはまだ学校の時間じゃないのかな?」

 「お兄様、私は初等学校へ行ってないのよ。おうちで勉強してるの」

 「へぇ、そうなんだ」

 何か事情があるのか?

 迂闊うかついていいかどうか迷うな。今はスルーしておこう。


 「お兄様もまだ学校は無理でしょう? 私と一緒に勉強しましょうよ!」

 俺もこの美少女と妖艶な家庭教師と同じ空間に居たいけどまだ早い。

 容疑が完全に晴れるまでは安心して一緒に過ごせないからな。

 

 「ごめんね。僕はドクターの所で治療を受けないといけないんだ」

 「あら、そんなに元気そうなのに変ね」

 頭の良い家庭教師が疑問を呈した。


 「患部が頭の中ですから元気に見えても一瞬で悪くなる危険があります。完治するまでは、ご面倒でも通院して頂く必要があるのです」

 「えー、私まだお兄様とちゃんとお話もしてないのにぃ」

 「アリス、食事中に不作法ですよ」

 冗談で不貞腐ふてくされてみせただけの妹に美人ママは容赦なく注意した。


 今のって、キャシーが最愛の息子と仲良く話すアリスに嫉妬した?


 おいおい、アリスはいくら美少女でも実の妹だぞ。

 そもそもアリスだってお前さんの娘じゃないか。

 キャシーがロビンに向ける無償の愛に初めて歪んだものを感じてしまった。

 それが原因で家族の間に深い闇を落としてても不思議じゃないぞこれは。

 

 「夕食の前には戻るからね。食後にお話ししよう」

 ちょっとアリスが不憫ふびんに思えてつい誘ってしまった。

 「約束よお兄様!」

 人をとりこにする笑顔を見せてから妹は従姉と共に食堂を出て行く。

 そのまま部屋で勉強を教わるのだろう。

 さて、俺もそろそろ出かけたい。

 ドクターの家で情報の整理とルディに種付けしたい。


 「ママ、僕も行かないと。寂しいけど我慢するよ。ママも我慢してね」 

 キャシーが俺について行くと言い出さない内に釘を刺しておいた。

 「・・・ええ、待ってるわ。早く帰って来てね」

 「うん、ママはその間、何をしてるの?」


 「ママもお仕事をしてるわ」

 えっ?

 キャシーは働いてたのか。初耳だ。一体何をしてるんだろう。

 「ママのお仕事ってなーに?」

 「モア家が持っている土地や建物の管理よ」

 上流階級!

 そうだよなぁ。この家だって結構大きくて由緒ありそうだもん。

 ブルジョアとかノーブルな家だよなここはどう考えても。

 

 あっ、ということは遺産絡みの犯行という線もあるか!


 12歳で成人したロビンが殺されたのだから可能性も高い気がする。

 だが、さすがにこの場でキャシーにいろいろ訊くことはできんな。

 帰ってからドクターに訊いてみよう。


 「ふーん、大変そうな仕事だけど頑張ってねママ」

 「ええ、頑張るわ。ロビンも辛いでしょうけど治療頑張ってね」

 「うん、僕は大丈夫だよ。じゃあ行ってくるね」

 

 俺とルディは乗ってきた馬車でモア邸からドクターの家を目指した。

 馬車が見えなくなるまでキャシーはずっと見送ってくれていた。

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