第15話 誰も信じられない

 あの母親だと!


 息子のロビンをあれだけ溺愛できあいしているキャシーが第一容疑者なのかよ。

 いやいやいやいや、あのロビン愛はとても演技には見えなかった。

 その息子の後頭部を石で叩き割って殺すなんてあり得ない。

 そのうえドクターに蘇生を依頼するとか矛盾もいいところだ。

 

 だが、本当にそうか?


 例えばの話だが、ロビンの口を塞がざるを得ない秘密を知られてしまい殺した。

 そしてドクターにロビン以外の魂で蘇生を依頼した。

 昔からの知り合いであるドクターは全て承知で引き受けた。

 これならロビンは中身が別人として生きているので、殺害を疑われることもなく秘密も漏れないので最善策と言えるだろう。


 かなり無理のある仮説だが筋は通る。

 まさかとは思うが、あのドクターがグルという可能性はある。

 そもそも蘇生術だか召喚術をやってる得体の知れない爺さんなんだ。

 何の確証も無しに信用なんてしちゃいけなかった。


 それは今同じベッドで寝ているルディにも言えることだ。


 キャシーとドクターとルディの共犯という線だって否定はできない。

 現時点では疑おうと思えば誰でも疑えてしまう。

 でもルディは、ルディだけは無条件で信じたい。

 

「頭の良いルディなら俺が何を考えているか分かるんじゃないか?」


「・・・はい。キャサリンに疑いを持ったことでドクターも疑いましたね」

「そうだ」

「・・・そして、私のことも疑っている」

「ゴメンな。ルディは良く知らない俺を信じて求婚を受けてくれたのに」

「この状況なら仕方ないと思います」

 気まずい沈黙が場を支配している間、俺は自分の気持ちを整理していた。

 そして迷いながらも出てきた答えがこれだった。


「たとえ何があっても俺は君を失いたくない」


「・・・私も貴方を失いたくありません」

 ありがとう。その言葉を心から信じたい。

 だから聞かせてくれ。ルディのことをもっと知りたいんだ。


「ルディはどういう経緯でドクターの所へ来たんだい?」


「16歳の時、同い年の仲間達と故郷の島を出ました。しかし、クラーケンの群れと嵐に同時に遭遇してしまい私はこの街の浜辺に流れ着いたのです」

 とても辛い記憶なのだろう。ルディはとても悲しい顔で話を続ける。


かかわりを恐れたのか、瀕死のアマゾネスを助けようとする者はいませんでした」

 この世界の事情を知らない俺には言う資格はないが、クソだな。

「そんな私をドクターが救ってくれました。それ以来ここで働いています」


 ルディは18歳だと言ってたから2年はドクターと一緒だったことになるな。

 しかも命の恩人でもある。協力を求められたら断れないだろう。


「ルディは、ドクターがロビンの母と共謀してると思うかい?」


「全く思いません」

「どうして?」

「私にはドクターが嘘をいているかどうか分かりますから」

 あっ!

 そうだった。俺の嫁は肉体派アマゾネスなのに嘘が見破れるんだった。

 ということは、ドクターの容疑は晴れたな。

 もちろんこれは、ルディの言葉を全面的に信用することが大前提だ・・・

 

 よし、決めた。

 ルディのことは信じる!

 そう決めた。今決めた。

 もし裏切られて命を落とすことになったらそれも運命と諦める。

 煉獄れんごくで土下座して本物のロビンに謝ろう。

 そうと決まったら、早速このまま捜査を続けるぞ。

 

「ロビンの母親、キャシーの言うことに嘘は無かったかな?」


「分かりません」

 へっ? どうして?


「キャシーは魔力が強いので真偽が少しも見えないのです」

 そういうものなのか。

「キャシーに限らず女性は男性より魔力が多いので判別は難しいですね」

 そうか。ま、何から何まで都合よく行くわけないな。

「男性にしても必ず嘘と見抜ける訳ではありません」

 んん? じゃあどうしてドクターや俺のことは分かるんだろう。


「・・・単純な方は見抜きやすいようです」

 単細胞!

 嫁にサラッとディスられてしまった。あとでお仕置きしてやる。

 だが今は褒めてあげないとな。凄く参考になった。


「ありがとうルディ、とても助かるよ」

「・・・私の言葉を信じるのですか?」

「ああ、君のことは無条件で信じると決めた」

「いいのですか? 貴方に嘘を吐いてるのかもしれませんよ」


「いいんだ。だけどもし俺をだましてるのならずっと騙し続けてくれよな」


「・・・ええ、一生騙し通してあげます」

 二人の間に入った亀裂を埋め合った俺たちは時間が許す限り乳繰ちちくり合った。

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