第8話 異世界の結婚適齢期

 俺の実家は両親と三人兄弟でその五人家族だったが何が悪い?

「ほほぉ、家族は五人では駄目か・・・?」

「他の国は知らんがここセクスランド王国では大不吉じゃ」

「何故だ?」


「国名にあるセクスは6を意味しとる。何でもかんでも6が基本なんじゃよ。その6に一つだけ欠ける5はわざわいを呼ぶ数として忌避きひされとるんじゃ」


「どうも分からんな。一つ多い7は問題無いのか?」

「7も好かれとらん数じゃが5よりは遥かにマシじゃの」

「その違いが俺には分からん」


「例えばじゃが、褒美や贈り物も6が基本じゃから銀貨が6枚与えられたりする。贈られた側が7人なら一人だけ貰えずに不満を持つことになるが、5人なら一人だけ余分に貰えて得することになるんじゃ。すると他の4人が不満を持つことになる。どちらが争いの種になりやすいか分かるじゃろ?」


 ふーむ、その理屈は分からんでもないが・・・

 まぁこれも文化の違いでそういうものだと思い込むしかない。

 ふぅ、話がれてしまったな。6人目の家族のことをこう。

「6が基本というのは一応合点はいった。最後の家族の話を頼む」


「ロビンの従姉になるブリジッドじゃ。住み込みでアリスの家庭教師をやっておっての、伯父のマックスに似て頭がええようじゃな」

「従姉を住まわせてるのか?」

「縁起のええ六人家族にする為の数合わせじゃよ。この国ではごく普通に行われとることじゃわい」

 はあ~、そこまで6にこだわるってのも凄いな。

 ともかく、そのブリジッドの性格を知っておかんと。


「その頭の良い従姉さんはどんな女性なんだ?」


「一言で言えば、行き遅れの年増女じゃな」

 クララ!

 ・・・いかんいかん。今は思い出にひたっている場合じゃない。


「というと、女性として何か問題でもあるのか?」

「どうなんかのう。ワシもほとんど会ったことがないんで分からんのじゃが、一般的に頭のええ女は男から敬遠されるからのお」

 日本にもその手の男は割といたが俺には共感できないな。

 自分よりも馬鹿な女が良いなんてのは。


「馬鹿でプライドだけは高い男が多いみたいだな」


「本当にその通りです!」


 うおっ、また肉体派メイドが凄い勢いで喰い付いてきた。

 アマゾネス的に今の話は許せないことなのか。

 だけど、どう考えてもアマゾネスは頭脳派じゃなくて肉体派だ。

 頭脳派が男に嫌われるのはむしろ彼女たちにとって有利だと思うんだが・・・?


「ですよね。俺は賢い女性が好きですよ」

 とにかくマティルダさんの機嫌は取っておいた方がいい。

 この得難えがたい肉体は俺にとって守護神になり得る。


 俺はまた少女の様に可愛いロビンの特上笑顔をふりまいておいた。

 ふふふ、超巨娘がまた照れて頬を赤く染めてるな。

 最初は不気味だったが段々と好ましく見えてきた。

 これがアニメイト社員の言ってたギャップ萌えってやつなのかもな。


「ブリジットとロビンはどんな関係だったんだ?」

 

「ロビンもブリジットからたまに勉強を教わっとったそうじゃ。特に問題があったという話は聞いたことないのお」

「行き遅れの年増女だそうだが、それによるヒステリーとかは?」

「少なとくともワシはそういう話を聞いたことないわい」

 ふむ、本当に問題無いのか表面化してないのかまだ分からんな。

 もう少し情報を集めておかないと。


「ちなみにブリジットは何歳なのかな?」


「うーん、いくつじゃったかのお。たしか18歳でモア家に来て4歳のアリスの家庭教になったんじゃから、今は21か22歳ということになるかの」


 22歳で行き遅れかよ!

 どうなってるんだこの世界の結婚事情は?

 いくら文化が違うとはいえさすがに突っ込みたくなるな。


「22歳で行き遅れの年増扱いは酷くないか?」


「結婚適齢期は14歳から16歳じゃからのう。普通の娘さんは遅くとも18歳の内に結婚するわい。22歳で独り身じゃとそう言われても仕方ないじゃろ」

 それはまた早婚の世界に来たもんだ。

 いや、日本だって戦国時代は10代で結婚が当たり前だったっけ?

 どうもいかんな。

 俺の中の常識はさっきから邪魔にしかなってない。

 早く慣れないとな。異世界の常識と文化に。


「そういうことなら確かに行き遅れの年増女で間違いないか」

「可哀想じゃがそうなってしまうのう」

 クラウリーは心配そうな顔でチラッとマティルダさんを見た。


「ドクター、私に何か言いたいことでも?」

「ひやっ、ワ、ワシは何も言っとらんぞい・・・」

 ふむ、どうやらマティルダさんもお年頃を過ぎようとしてるようだな。

 アマゾネスにも適齢期があるのかどうか知らんが彼女のふところに飛び込んでみるか。

 虎穴に入らずんば虎子を得ずだ。


「マティルダさんはおいくつ何ですか?」


「・・・私は18歳になります」

「お、おい、女性に年齢をくのは失礼じゃぞ」

「構いません。私はアマゾネスですから人間の常識は関係ありませんので」

「マティルダさんがここに居るのはやはり婿探しの為なのでしょうか?」

「はい、そうなります」

「もう既に誰か候補者がいるのですか?」

「いえ、アマゾネスを相手にしようとする殿方は中々おりませんから」


「そうですか。でも残念です。俺が大人だったら喜んでマティルダさんをお嫁さんにするのだけど」

 

 ビキィ!


 そんな擬音が聞こえそうなほど空気が一瞬で固まった。

 マティルダさんは焦点の合ってない目で前を見たまま動かない。

 ドクターは呆れ顔で俺をじっと見たまま動かない。

 しばしの沈黙の後、一つ溜息をついたクラウリーが想定外の言葉を口にした。


「何を言うとるんじゃ。お前さんも12歳で法律上は立派な成人じゃぞ」

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